正社員に「業務委託契約」への切り替えを強要するブラック企業の悪質な手口

 

 

業務委託契約を悪用したブラックな事例

「偽装請負」として真っ先に想起される働き方としては、IT業界における「SES」が挙げられるだろう。SES(システムエンジニアリングサービス)とは、客先のオフィスにシステムエンジニアを派遣してソフトウェアやシステムの開発、保守、運用業務を受託する契約のことだ。

派遣されるエンジニアは派遣元企業の正社員であり、本来であれば契約上、指揮命令権は雇用主(派遣元)のSES企業にある。しかし実態として、エンジニアたちは顧客企業(派遣先)からの指示で動くことが殆どであり、これは違法な偽装請負にあたるのだ。本来自社が持つべき指揮命令権を客先に奪われてしまえば、自社の義務である労務管理などまともにできるはずがない。にも関わらず、客先とエンジニアの間に入ってマージンだけを得る。まったく存在価値のない、ブラックな業種だと言い切ってよいだろう。

同じような構図は、医療業界にも存在する。たとえば「O歯科医院」(東京都)では、訪問歯科診療の提携先を開拓するために別会社「T株式会社」を設立。O歯科医院で正規職員として勤務していた社員AをT社の開拓営業に従事させたのだが、その際に出向や転籍をさせるのではなく、社員AにT社との「業務委託契約」を結ばせたのだ。業務委託であれば、Aは個人事業主として自由な裁量で仕事ができるはず。しかし実際のところ、AはT社代表者から細かく指揮命令を受け、ノルマ設定や残業強制までなされていた。これでは実質的に労働者と何ら変わらず、O歯科とT社のやり口はまさに違法な偽装請負といえる。

またT社では求人サイトに営業募集広告を掲載していたのだが、本来成果報酬しか存在しない業務請負契約を結ぶにもかかわらず、そこには「お給料は基本給と歩合」「裁量労働制 09:00~17:30」と堂々と記載されていたのだ。いずれも業務委託とはまったく異なる概念であり、基本的な法律さえ理解していないブラック企業といえるだろう。 

全国でリラクゼーションサロン事業を展開している「株式会社B」(東京都)もまた、業務委託契約を悪用している会社のひとつだ。同社のセラピストは業務委託契約で採用され、採用ページを見ると「リラクゼーションセラピスト」「リラクゼーションスペースでのお仕事」と曖昧な記載しかない。一見する限りでは、セラピストとしての技術提供と接客によって出来高制の報酬を得られるように受け取れ、法的にも問題ないように映るのだが、内部関係者の告発によると、実質的にはB社の指揮命令下で労働者としての業務遂行を求められ、違法性が疑われるという。具体的はこのようなものだ。

  • 「業務委託契約なので雇用関係は存在しない」という建前だが、セラピストは店舗のシフトに合わせて勤務する必要がある他、開店・閉店に伴う事務作業、清掃や電話応対、報告書作成など、施術以外の業務にも対応する必要があることから、実質的な労働者性が疑われる
  • 業務委託費用は施術時間に準じているため、施術以外の店舗運営業務に従事している分にはセラピストに収入が発生しない仕組みとなっている。また、業務委託でありながら休日取得やシフト変更に了承が必要であったり、身だしなみにも仔細なルールが存在したりするなど、労働者並の拘束が存在している
  • 「無料」と銘打っている研修についても、テキストや検定料、実際に店舗で客として施術を受けるといった実費負担が多く、研修後一定期間内に退職した場合は、1受講科目あたり数万円の研修費用を支払わなければならない

業務委託であるにも関わらず、細かい指示をおこなって社員のように都合よく使い、一方で雇用関係にあれば一般的に会社が負担する研修費用などは実費請求する。まさに、業務委託の都合の良い部分だけを得て、リスクを働く側に押し付ける、悪意あるやり口といえるだろう。

 

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