知性の欠如も安倍前首相ゆずり。「まん防」菅政権のドロ船が沈没する日

 

「戦略的知性の欠如」という安倍以来の罪

五輪開催を3カ月後に控えてこのようなドン詰まりに嵌まり込みつつあるのは、本誌が前々から言い続けていることだが、東アジア・南太平洋地域で言えば中国・韓国・台湾・ベトナム・ニュージーランドなど感染の抑え込みに成功した国々のように、全員検査・完全隔離・ロックダウンなど減り張りの効いた対策を短期集中的に投入するという方策を採らず、「感染抑制と経済維持の両立」と言えば聞こえはいいが、要はどっちつかずの優柔不断、ズルズルのだらしない政策を続けてきたためである。

一時は、日本と同様に国民と企業への「自粛」要請を中心とした施策で一定の抑制に成功してきたスウェーデンと共に、別のタイプの成功例だと呼ぶ人もいたが、そのスウェーデンは今、イギリス型変異種による感染者数・死者数の急増に直面し、各種規制の強化を打ち出すと共に、同国として「初めてのロックダウンを検討せざるを得ない」とロベーン首相が表明する事態となっていて、決して「別のタイプ」などと褒められるような例ではなくなった。

日本のズルズル姿勢の背景にあるのは、第1に、本質的な次元では、科学的・合理的根拠に基づいて目標を設定し、そこへ向かって段階を追って条件を整えつつ達成に近づいていこうとする戦略的知性の欠如である。安倍晋三政権がまさにそれで、菅義偉政権はそれをもっと悪い形で引き継いでいるとも言えるのだが、設定されるのは戦略的目標ではなくて、「そうなってくれたらいいな」という希望的観測であり、それは科学的・合理的な思考から導かれるものではなく情緒的な気分に頼るものであるから、野党やマスコミや世論とのまともな議論には到底耐えられない。そのため言葉遊び、言い換え・言い逃れ・誤魔化し・答弁拒否など、まるで詐欺師のテクニックのようなことを繰り返すしかなくなる。

第2に、実体的には、やること為すことすべてが定義不明のまま始まるので、その局面が終わっても何と何が為され、あるいは為されなかったのかの総括ができず、従って次に始まった今の局面の焦眉の中心テーマは何でサブのテーマは何かといった任務の立体的な設定ができない。だからすべてがのんべんだらりのズルズルべったりになるのである。

余談だが、戦略的知性においては「局面」の認識は極めて重要で、毛沢東『矛盾論』の論法で言えば、この局面での主要な矛盾〔解決することを求められている中心課題〕は何であり副次的な諸矛盾とその優先順位・相互関係がどうであるかを全体的な構造として捉えなければならない。そしてその諸矛盾が熟して行ってある時にバーンと弾けて質的変化が生じ次の局面に移行するという場合に、次の主要な矛盾とそれと副次的諸矛盾との関係をどう察知し設定し直すかということが大事になる。

第3に、考えてみるとこの安倍とその劣後的な亜流である菅政権の没戦略性は、太平洋戦争の悲惨を招いた「失敗の本質」そのものである。ということは、伊藤博文から安倍に至る長州田舎侍の激情性を基調とした藩閥政治の一大欠陥の呪縛から、未だにこの国は逃れることができないでいるということなのだろう。

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