安全なら東京湾に流せ。トリチウム汚染水放出で復興を妨げる菅政権の蛮行

 

この2年半、海は汚染され続けていた!

1.《地下水が核燃料に接触?》

最も懸念されるのは、メルトスルーして地中に達した溶融核燃料が地下水に触れて超高濃度の放射能汚染水を作りだし、それがそのまま海に流れ出しているかもしれない可能性である。

これは、小出裕章=京都大学助教が事故直後から指摘していることで(後述5.も参照)、爆発を起こした1~3号機(特に1号機)では、溶けた核燃料が原子炉の底に溜まる(メルトダウン)だけでなく、その底の鋼鉄を溶かして格納容器の床に落ちている(メルトスルー)ことは確実で、そうなるとさらに床を破り建屋のコンクリート土台を抜けて一部の核燃料が地中に達している可能性があるが、東電はもちろん(根拠もなしに──というのも誰も中に入って確かめてことがないので)否定している。

もし溶融核燃料が地中にまで達していると、地下水の少なくとも一部は、直接それに触れて超高濃度に汚染されてそのまま地中から海に滲み出し続けていると考えられる。この恐怖は、実際に廃炉作業が始まって、建屋内に飛び散ったり地中にまで潜り込んでいるかもしれない溶融核燃料が完全に除去されるまで10年以上は消えることはない。

2.《建屋から漏洩》

400トンの地下水が建屋やその地下に流れ込み、冷却用に使われた汚染水と混じり合ってどんどん量を増やしている問題。東電はそれを計算に入れて汲み出してタンクに保管する作業を続けているが、そもそも建屋は内部に水を溜めることを想定した設計になっておらず、しかも地震と津波と水素爆発でガタガタ、ボロボロになっているはずで、あちこちから地下水で薄められた汚染水が地中に漏れ出して海に流れていると考えられるが、これも、中に入れない以上、どこから漏れているのか確認のしようもなく、漏れを止めることは出来ない。

そもそも東電は、事故後1カ月経った2011年4月の段階では、「地下水が汚染水と混ざり合うことは考えにくい」と、地下水流入の脅威そのものを認めていなかった。この問題にいち速く着目したのは官邸の対策チームで、馬淵補佐官らが東電に糺して建屋直下に地下水脈が走っていることを認めさせ、さらに、そうであれば地下水が汚染水と混じって早ければ半年で海に到達する危険があるとの試算を発表、国費を投じてでも建屋の四方を粘土の壁で覆って地下水の流入を防ぐべきだとその緊急性を主張したが、東電の反対と政権の不決断で政府方針とはならなかった(後述5.10.参照)。このあたりの経緯は、馬淵著『原発と政治のリアリズム』(新潮新書)P.100~126に詳しい。また毎日新聞9月7日付の2面見開きの特集「汚染水対策漂流2年半」でも一部触れられている。

3.《トレンチから漏洩》

東電は今年7月27日、2号機海側のトレンチ(配管・配線などの作業用トンネル)内に溜まった高濃度汚染水が海に流出していたことを認め、急ぎトレンチ内の汚染水を汲み出してタンクに移し、トレンチそのものをコンクリートで止水する方針を明らかにした。

トレンチから海への漏洩は、事故直後の2011年4月に2号機海側で発生していることが明らかになり、一部をコンクリートなどで止水したものの、事故直後の超高濃度汚染水は回収せずにそのまま溜めてあった。ところがそもそもトレンチは水を溜めることを想定した設計になっていない上、トレンチ同士の継ぎ目やトレンチと建屋の継ぎ目に地震や爆発で隙間が空いたり、さらにトレンチ自身のコンクリートも地震でヒビ割れを起こしたりしているに違いない。また今回漏洩が明らかになったのは2号機付近だが、トレンチは1~4号機の全体に複雑に入り組んで設けられており、その中には2万立米の汚染水が溜まっていてあちこちから地中から海へと漏れていると考えられる。

4.《水ガラス壁の役立たず》

すでに数カ月前に2号機海側の汚染水流出に気が付いていた東電は、その事実を公表する前に、慌てて7月8日、その周辺の護岸に長さ90メートル、深さ1.8~16メートルの地中に応急の壁を作る工事を施した。水ガラスという薬液を圧力をかけて地中に注入し土を固めて壁を作るという一種の地盤改良工事だが、工法の特殊性のために1.8メートルの深さより上部には壁が作れないし、下部がきちんと(水を通しにくい)難透水層にまで到達・密着しているかどうかも疑わしい。こんな中途半端な壁を作っても、上は、汚染地下水の水位が地表から1.8メートルより上がれば壁を乗り越えて海に流れ込んでしまうし、下からも(また横からも?)海に漏れる可能性がある。

事実、8月2日には、その出来たばかりの水ガラス壁の周辺に開けられた水位観測用の井戸で水位が地表から1メートルまで達していて、すでに壁は乗り越えられてしまっていることが判明、せっかくの壁は何の役にも立たないことが立証された。そのため東電は8月9日、トレンチと護岸の水ガラス壁との間の土壌から汚染地下水を汲み出す作業を始めた。

以上の1.~4.は、要するに、増え続ける放射能汚染水が海に流れ込むのをどうしたら防げるかという問題であるけれども、いずれも奏功していないどころか、失敗の原因さえろくに究明されていない。そのため、資源エネルギー庁の8月7日発表の試算によっても、1日約300トンの汚染水が、事故発生以来2年半にわたり、為す術もないまま海に垂れ流され続けてきたと推定せざるをえない。ただし「港湾口、海洋については今のところ大きな汚染は認められていない」(同庁の新川達也=原発事故収束対応室長)という。謎である。

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