安全なら東京湾に流せ。トリチウム汚染水放出で復興を妨げる菅政権の蛮行

 

――《再録資料》 INSIDER No.696 2013/09/09――

福島原発、泥縄の挙げ句の「汚染水地獄」──政府・東電にのしかかる10の大難問

安倍政権は9月3日、福島第一原発の高濃度汚染水の漏洩を防止する「総合対策」として、原発サイトへの地下水の流入を防ぐための「凍土壁」の建設と、現在トラブルで運転が止まっているアルプス(放射性物質除去装置)の高性能化のための開発に、470億円の国費を投じる方針を明らかにした。遅きに過ぎる対応で、ぶっちゃけた話、「7日のIOC総会前に打ち出し、五輪招致への悪影響を防ぐ狙い」(3日付朝日)で慌てて打ち出したもので、動機が不純である上、その中身は「総合」とはほど遠いその場しのぎの弥縫策でしかない。東電任せの泥縄の汚染水対策が既に破綻して「太平洋を汚染した」と世界中から糾弾されかねない重大事態を、政府が乗り出したとしてどう回避できるのか。

多くの国民は、約1,000基の地表に設けられた汚染水貯蔵タンクの1つから約300トンが漏れ出していたことが8月20日に判明、少なくともその一部は海洋に流れ込んだのではないかというニュースが大きくクローズアップされて、初めて「えっ、大変なことになっているんだ」と思ったかもしれないが、実はこのタンク漏れの件は──きちんと整理して報道・解説していないマスコミの罪が大きいのだが──汚染水問題の本質から遠い、枝葉末節とさえ言える事柄であり、また今回の政府の対策とも直接にはほとんど関係がない。

そこで、汚染水処理をめぐる問題をこの段階で総ざらいして整理しておくことにしよう。

そもそも地下水を無視・軽視してきた東電

阿武隈高地に降り注いだ雨は川や地下水となって海に向かって流れるが、福島第一サイトの96万坪の敷地に流れ込む地下水は1日1,000トン(平均的な4人家族で1,200世帯の水道を賄える量!)に及ぶ。その5分の2に当たる400トンは原子炉建屋・タービン建屋などの建造物やその地下に流れ込んで、建屋の底部に溜まった放射能汚染水と混じり合って汚染水の総量を増やしたり、あるいはもしかすると(後述1.参照)地中にまで達している溶融核燃料と直接に触れて汚染されて海に流れ込んだりしている。

もともとこの敷地には川が流れていたことが、第2次大戦直後に米軍が撮影した白黒写真で最近になって判明したが(9月7日付日経)、そうすると表面に見えた川だけでなく、地下にも多くの水脈が通じていたに違いない。その上、この敷地の海側は海面から30~35メートルも切り立った断崖になっていたのを、冷却用の海水を取り込みやすくするために、海面から10メートルの高さまで(当時の津波想定5メートルに対してはゆとりを持たせたつもりで!)大掛かりに掘削して造成した。しかも、この型の原子炉建屋は、地表からさらに10メートルほどの深さの地下階を持つので、その地下部分は、掘削前のもともとの地表から数十メートル下を走っていた地下水脈にぶつかるように建てられている。そのため、事故後の馬淵澄夫=首相補佐官らの調査で公になったことだが、過去にも地下水が建屋内に漏れ出すトラブルを多々引き起こしていた。

他方、建屋の地下部分の底部は海面と同じか、やや低い位置にあり、そこに非常用電源を置いていたので、3.11の15メートルの津波は易々と堤防を超え、建屋を水浸しにした。つまり、地下水にも津波にも、二重に水に弱い原発を作ってしまったことが、今日の汚染水地獄を生んだ根本原因だったのである。

このことを前提においた上で、汚染水をめぐる問題点を列記すると、次の10項目になる。

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