海側の巨大遮水壁という致命的な誤り
海側の対策としては、もう1つ、建設中の大工事を付け加える必要がある。
5.《海側の巨大遮水壁》
東電は2011年10月、1~4号機の海側の護岸の外側に全長約800メートル、深さ22~24メートルの巨大な鋼鉄製の「遮水壁」を建設する工事に着手した。その深さの鋼管矢板700本を打ち込んで、岩盤層に固定して下からはもちろん上からも汚染水が海に流れ込むことを阻止しようという意欲的な大工事で、来年秋に完成予定。報道によっては、上記4.の水ガラス壁を「遮水壁」と呼んでいるので紛らわしい場合があるし、TVワイドショーなどでは両者を混同したような発言もあったりするが、もちろん両者は別物で、水ガラス壁はあくまで役立たずの応急措置、遮水壁は東電が散々検討した上で本格的な恒久施設として計画したものである。東電の11年10月26日付の発表はこう述べている。
<海側遮水壁の工事着手および陸側遮水壁の検討結果について>
平成23年10月17日にお知らせした「福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋」にもとづき、当社福島第一原子力発電所において、海側遮水壁に関する工事を10月28日より着手するとともに、陸側遮水壁に関する検討結果についてとりまとまりましたので、お知らせいたします。
海側遮水壁は、地下水による海洋汚染拡大防止を目的として、1~4号機の既設護岸の前面に設置するものであり、まずは、測量やボーリング調査による地質調査等の準備工事を行います。
なお、今回遮水壁として採用する鋼管矢板の打設につきましては、公有水面埋立免許等の必要な手続きを行い、準備が整い次第、実施する予定です。
陸側遮水壁については、設置した場合の効果や影響について、総合的に検討した結果、現時点においては、地下水による海洋汚染拡大防止に対して、海側遮水壁のみで対応することが適当であるとの結論に至りました。
なお、陸側遮水壁の設置については、今後、他プロジェクトの進捗状況等を踏まえて適切な時期に再度検討・判断することといたします。
当社といたしましては、海側遮水壁を速やかに着手することにより、地下水による海洋汚染拡大防止に万全を期してまいります。
見るとおり、これは、2.で述べたような馬淵補佐官らの「地下ダム」建設の緊急性の主張を否定して、壁は海側だけで十分だという結論に達したという発表である。これこそが致命的な間違いであることは、当時においてもすでに理論的に明らかだったし、今となればますますそうで、だからこそ今回の政府「総合対策」で山側にも壁を建設する方針に転換することになったのだが、政府も東電もこの致命的な誤りについて何ら反省も謝罪もしていないし、マスコミも2年半も無為無策が続いたことへの責任を正しく追及してこなかった。