安全なら東京湾に流せ。トリチウム汚染水放出で復興を妨げる菅政権の蛮行

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やはり「復興五輪」は名ばかりと判断して間違いないようです。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、福島第一原発の汚染処理水が漁業復興の妨げになりうることも顧みず、海洋放出する方針を固めた政府を猛批判するとともに、どうしても放出するのならばまずは東京湾から始めるべきとの持論を展開。さらに、汚染水問題の根本を取り除くには「地下ダム」の建設しかないとして、その理由を詳細に解説した旧稿を再録しています。

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※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年4月12日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

トリチウム汚染水はまず東京湾に放出すべき――“復興五輪”と言いながら福島県民を踏みつける菅政権の酷薄

何もこんな時期に、福島第一原発事故の結果として溜まり込んできたトリチウム汚染水の海洋放出を決定しなくてもいいだろうにと誰もが思うけれども、菅義偉政権にとってはそうではない。そもそも2020東京五輪は、安倍晋三前首相が2013年9月のブエノスアイレスIOC総会で「福島の原発事故は完全にコントロール下にある」と世紀の大嘘をついて誘致したもので、それと辻褄を合わせるためにはどうしても五輪前に汚染水についての方針だけは決めておかなければならなかった。

だってそうでしょう。仮に五輪が開催さ世界中から記者が集まってくれば、必ず「そう言えばあの時安倍さんはアンダー・コントロールと見栄を切ったが、いま福島事故跡はどうなっているのか」と質問が飛ぶに決まっている。その時に「いや、実は、トリチウム汚染水の処分方法がまだ決めっていなくて……」とは答えられないだろう。

それにしても、“復興五輪”などとリップサービスを繰り出しておきながら何の対策を打つわけでもなく、今になって「やっぱり海洋放出するので我慢しろ」と福島の漁民はじめ県民を思い切り踏みつけるかのような所業に出るというこの酷薄さは一体どうだろうか。

もちろん政府は、トリチウムがいかに健康被害とは無縁であるかについて熱弁を振るうだろう。いや、本当にそうかという科学者の異論があると反論すれば、トリチウムは自然界に存在しているし、日本に限らず世界中の原発ではこれまでも海か大気中に放出してきて何の問題も引き起こしてこなかったと強弁するだろう。しかしそんなのは屁理屈で、福島の漁民を追い詰めてきたのはいかなる理屈をも超えた風評被害なのだ。この10年間、さんざん風評被害に苦しみ、岸壁から這いずり上がるようにしてようやく普通の操業ができるようになるところまで漕ぎ着けたばかりの漁民たちにとって、海洋放出はもう一度岸壁から蹴り落とされるに等しい仕打ちとなることが、どうして菅には理解できなのか。

もし本当にトリチウムがそれほど安全なのであれば、首相官邸の前庭に象徴的な汚染水タンクを置いて、その水で水道を賄ってみせたらどうなのか。それは極端だとしても、どうしても海洋放出しなければならないのであれば、東京湾から始めて、全国の海岸に広げて行ったらどうだろうか。しかし、福島の海にだけは流してはいけない。沖縄の米軍基地を本土各地に分散させ、沖縄はこれまで苦しんだ分、これからは1つも置かないという論理と同じく、苦しみは皆で引き受けて福島の人々にはこれ以上辛いことを押し付けないようにしたい。

相変わらず根本的な解決を回避

それにしても、こういうことになるのが分かっていながら無為無策で過ごしてきた政府・東電の怠惰には呆れるほかない。トリチウムは、従来の汚染水処理の方法では除去しきれないが、実は除去する方法はあって米国ではすでに一部実施されているという市民運動からの情報は前々からある。10年間もあればそれを研究することもできたのではないのか。

また、これまでに1,000基超のタンクに溜まった汚染水は放出できたとしても、汚染水が発生する元を断つことができていないから、引き続き1日あたり140万トンほど汚染水が増え続ける。ここにも、根本原因を取り除くのではなく起きた結果に対して対症療法を施してその場を切り抜けようとするこの国お得意のやり方が現れている。

根本原因を取り除くには、「地下ダム」の建設しかない。廃炉が簡単には進まず、従って原子炉下のデブリの除去が何十年先になるか見通せない中、そこへ流れ込んでくる地下水を止めなければ果てしもないことになる。

この問題について本誌は、安倍の大嘘発言直後の2013年9月9日付No.696で論じ、同10月に私が主宰する「大山村塾」に小出裕章助教を招いて講演会を開いた際に私が同趣旨のサブ報告を行い、さらにその記録を『アウト・オブ・コントロール』と題して出版した(花伝社、14年1月刊)。これらでこの問題の基本部分は論じ終えていると思うので、ここでは、本誌旧稿を再録し参考に供したい。

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