安全なら東京湾に流せ。トリチウム汚染水放出で復興を妨げる菅政権の蛮行

 

小出裕章や佐藤暁が最初から言っていたこと

当時、馬淵だけでなく民間の専門家の何人かも「地下ダム」の緊急性を主張していた。本誌は2011年6月20日付で「チャイナシンドロームが始まった?」と題して次のように書いていた(高野『原発ゼロ社会への道程』P.28~に所収)。

▼福島第一原発1~3号機の炉心溶融(メルトダウン)した核燃料が圧力容器内で止まらずに、底部貫通(メルトスルー)して格納容器下部にまで落下していることは、すでに政府も認めているが、6月16日のTV朝日『モーニングバード』にVTR出演した小出裕章=京大助教は、溶融核燃料がさらに格納容器をも突き破って建屋のコンクリート床を溶かし、地中にのめり込み始めている可能性が高いと指摘した。まさにチャイナシンドロームの悪夢で、そうなると地中で地下水に接触して超高濃度の汚染水が近くの海に流れ出すという最悪事態となる。しかも、底が抜けているのではいくら水を注いだり冷却装置を取り付けたりしても、もはや核燃料を冷やすことは出来ない。このことは、19日18時のANNニュースでも採り上げられ、米GE出身の原子力コンサルタント=佐藤暁がほぼ同様のことを指摘している。

▼小出によれば、汚染地下水の海洋流出を防ぐには、建屋全体を取り囲むように地中深くにまで壁をめぐらせて「地下ダム」を作る以外に方法がない。これについて20日付毎日新聞の連載コラム「風知草」で山田孝男が書いているところでは、「原発担当の馬淵澄夫首相補佐官は小出助教と同じ危機感を抱き、地下ダム建設の発表を求めたが、東電が抵抗している」という。

▼理由は、地下ダム建設には1,000億円かかり、今それを公表すると東電の債務がますます増えると受け取られて株価が下がり、28日の株主総会を乗り切れなくなるからだという。あのねえ……チェルノブイリよりも酷い環境汚染が広がり、日本近海のみならず太平洋が死滅の危機に陥るかもしれないという問題と、これ以上下がりようもないほど下がっている自分の会社の株価がいよいよ底を打つかもしれないという問題とを、どうして天秤にかけることなど出来るのか。東電の経営者は頭が狂っているとしか思えないし、それを押し切ることの出来ない政府もだらしない……。

小出は当初、11年3月末には、10万トン級タンカーを持ってきて汚染水を移し、世界最大級の原発である柏崎刈羽原発にそれなりの廃液処理施設があるので、そこに運んで処理することを提案した。そして、上記のように6月には「地下ダム」方式を提案した。小出は最近の事態について「何か皆さん、今になって汚染水問題が大変だと思っているかもしれないが、私に言わせれば、何を今更」と語っている(例えばTV朝日「なんでも総研」8月1日)。

また佐藤暁については、古賀茂明が講談社・現代ビジネスWebの月刊コラム「日本再生に挑む」8月号で「福島第一原発の汚染水の海洋流出問題」と題して書いている。

▼佐藤は、GEに勤務していた当時、福島第一原発の建設に携わり、その後も日本の原発の多くに関与してきた専門家である。佐藤は、吉田昌郎福島第一原発所長とも親交が厚く、事故後も吉田から何回もアドバイスを求められたそうだ。当時の吉田所長の最大の関心事は、この汚染水問題だったという。

▼吉田は、大量の水を流し込んで冷却を続けても、その処理の当てがないこと、早晩海洋への流出が始まることを真剣に心配し、佐藤に、水冷方式以外の処理方法を一緒に考えて欲しいと依頼していたそうだ。しかし、吉田は、その思いとは裏腹に、日々の事故収束作業に追われるうちに癌を発病して現場を離れ、去る7月9日に亡くなられた。きっと、闘病中も、汚染水処理に後手後手の対策しかとれない東電の対応に歯がゆい思いを抱いていたに違いない。天国から、「何を今頃になって。とっくの昔にわかっていたじゃないか」と言っているような気がしてならない。

▼東電は今、海側の岸壁沿いの地中深くまで遮水壁[水ガラス壁のこと]を作っている。海の中の堤防の下にも[海側遮水壁を]建設中だという。しかし、ここで地下水をせき止めると、当然行き場を失った汚染水が徐々に溜まって、その水位が上がる。そして、その水位がついに遮水壁[水ガラス壁]の高さを超える状況になったので、この先は、遮水壁[水ガラス壁]を超えてどんどん海に流出することになる。それで、マスコミは大騒ぎをしているわけだが、遮水壁を作ったら汚染水が溢れ始めたということは、遮水壁を作る前は、溜まるはずの水がどこかへ行っていたということだ。どこに行ったのかと言えば、もちろん、海しかない。つまり、何のことはない、もっと前から汚染水は海に流れていたというのは、どんなに鈍感な人間でもわかるはずだ……。

古賀茂明「福島第一原発の汚染水の海洋流出問題」

馬淵をはじめ小出や佐藤が当初から指摘し、今また古賀も補足しているように、1.~5.のいずれの対策も、汚染水が海に流れることを阻止出来ないし、仮に出来たとしても増え続ける汚染水はひたすら汲み出してタンクに貯蔵する以外に方策がない。いずれこのサイト周辺は地平線の彼方まで見渡す限りのタンクで覆い尽くされ、すべての核種を除去出来る技術が開発されるのを待つことになるだろう。この「除去」というのがまた問題で、そのような技術が開発されたとしても、核物質は水から「分離」されるだけで「消去」出来る訳ではない。分離できれば、残りの水を海洋に投棄することは出来るが、分離された核物質は核廃棄物としてほぼ永久に保管しなければならない。

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