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「凍土壁」という安易な発想で大丈夫か?

このように散々回り道をして2年半を空費した末に、やっぱり海側だけでなく山側まで含めて四方を囲まなくてはどうにもならないということになったのが、この度の政府方針である。

10.《凍土壁という安易な選択》

政府方針よると、1~4号機の周り約1,400メートルにわたって1メートル間隔で30~40メートルの深さまで管を差し込み、その中で超低温の冷却材を循環させて周りの土を凍らせて壁を作り上げるという。初期費用が安く工期が短いのが最大の利点で(またもやこれが選択基準だ!)、東電が2011年6月に「地下ダム」を検討した際には1,000億円以上、場合によると数千億円という試算が出て、その余りの巨額さが断念の理由の1つとなったのだが、凍土壁だと320億円で出来るらしい。

しかし、この方式はアクアラインはじめトンネル工事などで一時的な水止め措置として使われたことはあっても、恒久的な施設として長期にわたって使われた例はない。これから何十年かかるか分からない廃炉作業を控えた原発サイトにふさわしい技術なのかどうか疑問の声もある。また消費電力も莫大で、一説では「原発1基分ほど」になるが、まあ東電だからいいのか。

何よりも問題なのは、上述のように、今の計画では建屋の直近を凍土壁で囲い、地下水が両脇から海に流れ込むように作るのだが、そうすると今「地下水バイパス」で起きているのと同じく、それより上流にある貯蔵タンクがまた1つでも汚染水漏れを起こすと放流を止めなければならなくなることである。それを避けるには、凍土壁の規模を数倍から10倍も大きくして(あるいは別途の凍土壁を作って)タンク群より上流で地下水を遮断しなければならない。これから、約1,000基の貯蔵タンクが次々に水漏れを起こすことが予想される中で、建屋の周りだけ囲むという今の計画はすでに無意味となっているのではないか。

もう1点、馬淵は、メルトダウン、メルトスルーが起きているとなると、高温の燃料が最終的には地下のコンクリート床を貫通する恐れがあり、「これを防ぐとなると、さらに別の工事が必要になる。四方のパーテシションにすぎなかった遮水壁を、バスタブのように底面ごとすっぽり覆うものにしなくてはいけないということだ。それはこれまでの対策を根底から覆す」と述べている(前掲書P.113)。このことは政府方針では考慮されていないに違いなく、この面からも凍土壁方式は無理ということになるだろう。

こうやって時を空費している間にも、地下水があちこちで汚染水と混じり合ってどこから海に出ているか分からない状態は続いていくし、さらに、これだけの地下水が流入し続けると地盤が緩んで液状化しやすくなり、そこへ新たな地震と津波、あるいは台風や竜巻が襲ったりすれば、建屋やタンクが倒壊したり配管や配線が吹っ飛んだりして大惨事となる危険がある。2020年東京五輪までにそのようなことが起きないよう、神に祈るしかない。

こうして10大難問を見渡すと、1.は確認不能、2.~9.はすでに破綻し、ようやく行き着いた10.も着工する前から構想としてすでに破綻しかかっている。このまま政府が東電に救いの手を差し伸べても、太平洋が死の海となるのを防げるかどうかは不明である。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年4月12日号より一部抜粋・文中敬称略)

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image by: 防衛省, CC BY 4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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