安全なら東京湾に流せ。トリチウム汚染水放出で復興を妨げる菅政権の蛮行

 

汚染水の増大をどうしたら止められるのか

さて、海への流出を阻止しようとするのは当然だが、そもそも地下水が1日1,000トンも流入してそのうち400トンが何らかの程度で汚染され続けているという事態を何とかしなければ、すべてはモグラ叩きに終わる。

汚染水を増やさないために、四方を取り囲むという抜本対策を採らないという前提でこれまでに行われてきた対策は2つある。

6.《循環注水冷却システム》

1つは、これは地下水とは関係ないが、事故当初のように原子炉の冷却用に海水を後から後から注ぎ込んでいるのでは果てしないことになるので、東電は2011年4月から突貫工事で「循環注水冷却システム」を作り上げ、6月27日に稼働した。ところがこれは、油分離装置は東芝、塩分除去装置は日立、セシウム吸着装置は米キュリオン社、除染装置は仏アレバ社という別々の機器を全長4,000メートルもの配管でつなぎ合わせた急造品であったため、初日から注水ホースの水漏れがみつかるなどトラブルが相次ぎ、9月になってようやく安定した運転が出来るようになった。これによって、冷却に使って汚染された水を除染して再び原子炉に注ぐことが出来、その面からは高濃度汚染水の増大を抑えることに貢献している。

しかしこの装置はセシウムを1万分の1まで低減させることが主な機能で、要するにセシウムを抜いた汚染水をグルグルと使い回しているにすぎない。そこで東芝が新たに開発したのがアルプス(ALPS=Advanced Liquid Processing System=高度液体処理システム)で、汚染水を活性炭など7種類の特殊な吸着材に通して放射性物質を取り込み、プルトニウム、ストロンチウム、ヨウ素など63種類の放射性物質のうちトリチウムを除く62種類の各濃度を国の排出基準以下にする能力があり、1日当たり最大500トンを処理できるという。今年3月に鳴り物入りで試運転が始まったものの、6月に部品の腐食が見つかって今は停止・点検中。このシステムの改善に150億円を東芝に注ぎ込もうというのが、今回の政府「総合対策」の2つの柱の1つである。

トリチウムが除去出来ないのは弱点で、東電は一応、トリチウムが出す放射線=ベータ線のエネルギーは非常に弱く、体内に取り込んでも尿と一緒に排出されるので心配ないとか、アルプスで処理した後も濃度が高い場合には希釈して濃度を下げる方法もあるとか説明して、アルプスが稼働しさえすれば処理後の水を海に放流しても大丈夫だとしているが、本当にそうなのか、今のところ漁協をはじめ誰も納得していない。

アルプスが理屈通りに働いて、残るトリチウムの処理方法も固まれば(スリーマイル事故でもやはりトリチウムは除去出来ず、周辺住民の合意を得て空中に蒸散させた)、循環冷却水を浄化できるだけでなく、タンクに溜まった汚染水も順次除染して海へ流すことが可能になる。しかしそれにしても、地下水の建屋への流入を止めなければ汚染水はいつまでも増え続けることに変わりはないし、建屋に入らずに土中から直接、海に滲み出す分も阻止できない。

7.《地下水バイパス》

そこで、東電が地下水の流入を抑えることの重要性をようやく認めて、その対策として採用したのが、1~4号機の山側(すなわち地下水の上流側)に12本の井戸を掘って、建屋やその下に流れ込んで汚染される前の自然水をポンプアップし、パイプを通じて海に放流するというバイパス・システムである。これによって建屋やその下に流れ込む水量を1日100トン減らすことが出来るという。4月から試運転を開始し、水質を重々確認した上で漁協などに説明して了解を得、8月から稼働させる予定だったが、その矢先に汚染水の漏洩が起きて立ち往生してしまった。

アイデア自体は悪くないと思うが、まずいことに貯蔵タンク群がこの井戸より山側(地下水の上流)に位置しているため、今回のようにタンクが水漏れを起こすと汚染水が地面に滲みて井戸で組み上げる前に地下水を汚染することになる。また、大量の地下水の汲み上げによって地盤が緩むとタンクが傾くなどして余計に水漏れが起こりやすくなる危険も指摘されている。このため、せっかくのこのシステムも一度も使われることなく立ち枯れとなる可能性が大きい。ましてや、10.の陸側遮水壁が出来れば無用になる。

以上の6.7.によっても汚染水の増大は止められない。そこで東電は、ひたすらそれを汲み出して保管しなければならないのだが……、

8.《汚染水地下貯水槽》

そのために2012年12月に着工したのが「地下貯水槽」で、当初はアルプスで浄化した低濃度汚染水を溜める予定で7基5万8,000トン分を完成させたが、アルプスが動かないので仕方なく高濃度汚染水2万7,000トンを流し込んだ。が、掘った穴にポリエチレンやベントナイトで出来た3層の防水シートを敷いただけの、見た人に言わせれば「鯉を飼う庭の池」とほとんど変わらないお粗末な槽は、使い始めた直後にたちまち穴が開き、今年4月5日に推定で120トンが地中に漏れたと発表され、使用停止に追い込まれた。漏れた汚染水はもちろん、地下水に混じって海側に流れた。

後に、地下水の圧力でシートの底が最大で40センチも隆起していたことが発見され、設計だけでなく立地にも初めから無理がある素人仕事であったことが確証され
た。

9.《汚染水地上貯蔵タンク》

汚染水を貯蔵する地上の鋼製タンクは、事故のしばらく後から作り始めていたが、決め手とするつもりだった貯水槽が役に立たないことが分かったので、増設を急ぐことになった。ところが8月20日になってそのタンクの1つから300トンの汚染水が漏れていたことが判明した。1基で1,000トンの汚染水を貯えるタンクは、厚さ20センチのコンクリート板の上に乗っているだけで、地震が来たらひとたまりもないが、それだけでなく、予算もなく工期も短くということで、現在約1,000基あるうちの350基は、鋼管の継ぎ目にパッキンを挟んでボルトで締めただけの「フランジ型」の構造で、「溶接型」に比べて耐久性に乏しい。しかも、当該のタンクはごく初期に別の場所に設けられたが地盤沈下で傾いたため使用していなかったのを移設した「使い回し」であったことが明らかになった。ずさんだらけの出鱈目工事である。

さて、このタンクからの漏れで困ったのは、7.で触れたように、ここで地下水が汚染されるとその海側に設けられた「地下水バイパス」も、さらに後述10.の遮水壁も、意味がなくなってしまうことである。両方とも、建屋に流れ込んで汚染水と混じる前の“キレイな水”を海に放流することを目的としているのに、それより上流にあるタンク群が次々に水漏れを起こしたのではどうにもならない。となると、バイパスのための井戸にせよ遮水壁にせよ、タンク群のもっと上に作らないと地下水を海に逃がせないことになる。

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