国民の命など二の次。ミャンマーの混乱を利用する卑劣な国の名前

 

「原理原則より影響力の拡大」の中国

ではその中ロ(Red Team)側はどうかというと、まだ決め手に欠くといえます。国連安保理で対ミャンマー制裁が議論される際には、拒否権の発動をにおわすか棄権して、対ミャンマー非難を防ぎ、国軍に恩を売るような作戦を取っています。

ロシアについては、中国と結託して法的拘束力を持つ制裁は阻止し、ロシアからミャンマー国軍に対しての武器輸出の維持・拡大を狙うという経済的な目的に加えて、国際政治において影響力が著しく低下している外交的影響力の拡大を図りたいとの狙いが見えます。

後者についていえば、国軍による市民への武力行使を容認せず、非難する立場を鮮明に打ち出しておくことで、「ロシアも国軍による人権侵害と蛮行を看過しない」という姿勢のアピールになり、そのうち、米欧側とミャンマー国軍との間で、互いに挙げた拳を下すきっかけを失っている状態を仲介する役割を得たいとの狙いが感じられます。

中国については、一言でいれば「イデオロギーよりも経済」、「原理原則よりも、影響力の拡大」という方針が明確ですが、実際の狙いは、ASEAN諸国に広がりつつある米欧の影響力を排除したいというものでしょう。

そのカギはASEANが外交原則上、重要視する“内政不干渉”の原則を看板に、「ミャンマーに内政干渉をもくろむ米欧を警戒すべし」という方針を掲げて、「常に欧米諸国は、自分たちの勝手と理論でアジアを混乱させてきた」という歴史上の侮辱をイメージさせる戦略です。

まさにOne Asiaの戦略がここに見えます。

南シナ海問題や台湾問題などで米中の間に挟まれている各国が、米欧に接近し、中国を非難するサイドに回らないようにくぎを刺す戦略です。

その動きの一環として、ここ1週間の間に王毅外相を派遣したり、逆に王毅外相主催で北京や上海などにASEANの外相を招いたりして、各国への働きかけを強めています。

その際の切り札が、一帯一路による経済支援と協力に加え、コロナワクチンの供与、借金の軽減などの支援策パッケージです。

フィリピン近海に200隻を超える中国漁船を停泊させている件でも、フィリピン政府の外交筋からは激しい抗議が行われ、アメリカもすかさずその非難に加わっていますが、肝心のドゥテルテ大統領は、中国からの支援への気遣いもあり非難に加わっていません。

インドネシア、マレーシア、ベトナム…南シナ海問題では安全保障上の対立構造を維持していますが、中国への非難のトーンは下がってきています。

そして一番顕著な“変化”は、ASEAN諸国が台湾問題や新疆ウイグル地区の問題に対して特段非難をしないということで、中国がもくろむ外交的な戦略がはまっているように思われます。

そしてそれは、ASEANの核となる地政学的な位置づけを持つミャンマーにも当てはまっているのが実情だと思われます。

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