韓国「慰安婦が敗訴」の歴史的判決。日韓は時計の針を2015年にまで戻せ

 

4.「韓国併合」100年を迎えて

こうした日本の政府、国民の動きは、被害者から見れば、いかにも不十分で、遅々とした取り組みだと思われたでしょう。しかし加害の歴史を認めようとしない保守的な政治勢力が強い中で行われた、戦後民主主義派の努力の結果でした。また反省・謝罪がなければ、日本はアジアと共生して未来を切り開いていけないということでもありました。

そして、歴史への反省と謝罪は、「小渕恵三総理大臣・金大中大統領・日韓パートナーシップ宣言」(1998)、「小泉純一郎総理大臣・金正日総書記・日朝平壌宣言」(2002)と引き継がれ、韓国併合は朝鮮の人々の「意に反して」行われたことを認めた「菅直人総理談話」(2010)へと至ったのです。

アジア女性基金を批判した日本の運動団体は、慰安婦問題を立法によって解決しようと、民主党など野党の議員と準備をすすめ、韓国の運動団体もそれを支持しました。2009年政権交代がおこり、民主党政権が誕生すると、「全国行動2010」を結成して、新政権による立法解決を求める運動を開始しましたが、民主党政権はその声に応じることなく終わりました。

その後、歴史修正主義的な安倍政権が長く続いたことで、日本の政府と国民の反省と謝罪の流れは一時堰き止められることになります。安倍総理は、「河野談話」も「村山談話」も否定し、「日韓パートナーシップ宣言」や「日朝平壌宣言」も拒否したかったのですが、さすがにそれは出来ませんでした。「安倍総理談話」で、中国への侵略については反省しても、日本の植民地支配について一切触れていなかったり、「菅直人総理談話」を総理官邸・外務省HPから削除するなどが精いっぱいであったのは、米国をはじめ国際社会の目がそれを許さなかっ
たからでしょう。

2011年、韓国憲法裁判所は、慰安婦問題解決に努力しない韓国政府の不作為は憲法違反である、との判決を出しました。ときの李明博大統領は年末の日韓首脳会談で、韓国の大統領としてははじめて、日本の野田佳彦総理に慰安婦問題に関する新たな措置を要求しました。翌年2月、日本の運動団体は、解決案として、

「(1)日本政府の責任を認め、被害者の心に届く謝罪をすること、(2)国庫からの償い金を被害者に届けること」を提案します。時の民主党政府の斎藤勁官房副長官は、韓国大統領の特使李東官氏と秘密交渉をおこない、合意に到達したものの、野田総理の同意がえられず、交渉は流産に終わったと言われています。

2012年12月、前述のとおり、日本では安倍晋三氏が再度総理大臣に返り咲きました。しかし、翌年韓国に出現した初の女性大統領朴槿恵氏は慰安婦問題の解決を求めて、首脳会談の開催を拒否するにいたりました。日韓関係はきわめて険悪な対立状態に陥ったのです。その中で、2014年6月、日韓の運動団体は、河野談話の継承発展によって解決がえられるとし、加害事実と責任を認めて謝罪し、謝罪の証として賠償を支払い、真相究明、歴史教育などの後続措置をおこなうという内容の新解決案を提案することもしました。

日韓政府間の交渉は難航しましたが、オバマ米政権の両政府への仲介、後押しもあって、ついに2015年11月の日韓首脳会談で早期解決の合意がうまれ、12月28日の日韓外相会談で解決案に合意し、共同の記者発表がなされました。

その合意の根幹は、「日本政府は責任を痛感している」、「安倍内閣総理大臣は……慰安婦として、数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し、心からのお詫びと反省の気持ちを表明する」、「日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を治癒する措置を講じる」というものでした。日本政府の予算から10億円が拠出され、アジア女性基金が渡した総理の手紙では、「道義的責任」と言い続けていたものを政府の「責任」と明言しました。

この根幹部分に加えて、日本の外相は「今回の発表により慰安婦問題は最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」、「韓国政府とともに、国連など国際社会において互いに非難・批判することはさしひかえる」という追加的合意点を表明しました。

この合意は韓国の被害者や運動団体から、事前の相談がなかったことや謝罪が曖昧なことなどをもって厳しく批判されました。一方、安倍総理からすれば、これまでの歴史修正主義的な主張とは相容れない文言の合意であり、そのためもあってか、文書には残さず、外相の会見のみで行うという「異例」の公表の仕方をしました。その後、日本の国会で「総理のお詫びの手紙」を出すかと聞かれ、安倍総理は「毛頭考えていない」と述べ(2016年10月3日)、被害者や支援運動の反発を招くことになりました。

朴槿恵政権は合意に基づいて、2016年「和解・治癒財団」を設置し、生存被害者には一人当たり1,000万円、被害者遺族には一人当たり200万円を、日本政府が送付した10億円から支給することを開始しました。そして、文在寅政権は正式に発表していませんが、同財団は生存被害者47人中35人、被害者遺族58人に事業を実施することができました。「金銭の支給は要らないが、日本政府の謝罪のしるしとして受け取る」と述べた被害者親族の言葉が、同財団の資料に記録されています。

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