日本で言えば「マツキヨで接種」の驚愕。米国のケタ違いワクチン戦略

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我が国でもようやく運用が開始されたものの、各地での大混乱が伝えられる新型コロナワクチン接種。一方アメリカでは、すでに成人の60%近くが少なくとも1回目の接種を済ませているといいます。このあまりに大きすぎる差の要因はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、「Windows95を設計した日本人」として知られ、米国在住で自身もワクチン接種済みの世界的エンジニア・中島聡さんが、アメリカのワクチン接種事情を時系列で詳しく紹介。そこから浮かび上がってくるのは、米国政府の圧倒的なスピード感と、安倍・菅両政権の緊迫感不足でした。

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プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

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米国のコロナ事情

日本でもようやくワクチン接種が始まりましたが、「ワクチン接種完了、日本到着分の15%止まり」などの報道もあり、なかなか思うように進んでいないようです。

そこで、順調にワクチン接種が進んでいる米国の事情を時系列で書いてみます。米国が、今の状況に繋がる「何をしたのか」を理解することは、日本政府が「何をしなかったのか」、そして「これから何をすべきなのか」を知る上で役に立つと思います。

米国で最初に接種が始まったPfizer-BioNTech(米国、ドイツ)とMaderna(米国)、及び英国で接種が始まったOxford-AstraZzeneca(英国)のワクチンに関連する、2020年の主なイベントを列挙すると、

  • 1月 中国の研究者がワクチンの塩基列を公開。Modernaの研究者はわずか2週間でワクチンを開発。
  • 2月 Oxfordの研究者がワクチンを開発。最初は米国の製薬会社Merckとの提携の話が進んでいたが、英国政府の介入により(英国の製薬会社である)AstraZenecaへのライセンス契約が決まる(5月)
  • 3月 BioNTechが中国の製薬会社Fosunから$135 millionを調達。Fosumは中国での販売権を取得
  • 4月 Modernaが米国政府から$955 millionを調達
  • 4月 BioNTechがPfizerから$185 millionを調達
  • 4月 それぞれのワクチンの治験がスタート(Phase IとII)
  • 5月 Oxford-Astrazeneca のワクチンを英国政府は1億回分、米国政府は3億回分確保。同時に、英国政府から$80 million、米国製府から$1.2 billionの開発費が提供される。
  • 6月 BionTechがEUから$129 millionを調達
  • 8月 米国製府がModernaのワクチン1億回分の購入を契約、EUは1億6,000回分の購入を契約
  • 9月 BioNTechがドイツ政府から$445 millionを調達
  • 11月 BioNTechワクチンの治験がPhase IIIに入り、4万人に投与。91.3%の有効性を持つという結果に
  • 12月~1月 それぞれのワクチンが米国、英国、ヨーロッパでスピード認可

となります。

COVID-19の大流行で医療危機に見舞われた米国とヨーロッパが、莫大な資金を提供してワクチンの開発を加速しただけでなく、まだPhase III の治験に入る以前のワクチンの購入計画をしています。

特に米国政府は、各研究機関に大規模な研究開発費を渡すと同時に、「1億回分」などの規模でのワクチンの確保に去年の5月ぐらいから動いているのです。今年になって米国では大規模なワクチン接種が始まり、今では有り余っている状況ですが、それは、この時期の先行投資の結果なのです。

米国政府から、去年の初めにこれだけのお金がModerna(米国)、BioNTech-Pfizer(ドイツ、米国)、Oxford-Astrazeneka(英国、英国)に流れたからこそ、素早く大規模な治験が行えたし、生産ラインの構築も可能になったのであり、この点は高く評価して良いと思います。

日本製のワクチンがないこと、日本政府がワクチンの入手に手間取っていることなどが批判されていますが、スピード感が圧倒的に違います。当初、日本ではあまり感染が広がらなかったためにことが逆に災いになった面もあると思いますが、やはり日本政府に緊迫感が足りなかったのだと思います。

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