安倍政権の残滓か。新潟のドン裏金騒動の背景に見えた河井夫妻事件の影

 

ところが、河井夫妻の買収罪での逮捕・起訴は、従来であれば「政治活動に関する寄附」との弁解が可能だとして公選法違反での処罰の対象には殆どならなかった首長・県議・市議等の地元政治家に対する金銭の供与を含めて、買収罪による摘発の対象としたものだった。

従来の買収罪による摘発に関する常識からすると異例だ。

これに対して、河井夫妻は、公判で、全面的に無罪を主張した。

地方政治家である地方自治体の首長や県議・市議らへの供与については、克行氏は、

「『当選を得させる目的』はあったが、そのために『選挙運動』を依頼して金を渡したのではない。あくまで、案里の当選に向けての『党勢拡大』『地盤培養行為』のような政治活動のための費用として渡した金である」

と主張した。

このような地方政治家への金銭の供与は、従来は「政治活動」に関する資金の寄附ということで公選法違反の買収罪の摘発の対象とされてこなかったのに、それも含めて買収罪とされたことに対して、このような克行氏の主張は、当然に予想されたことだった。

しかし、克行氏は、被告人質問が始まった時点で、公判で、それまでの無罪主張を翻し、公選法違反の公訴事実を全面的に認め、結局、すべての事実について一審有罪判決を受け、一旦は控訴したが、その後、控訴を取り下げ、有罪判決が確定した。

つまり、従来は、「地盤培養」「党勢拡大」のための「政治活動のための寄附」と弁解されていたような行為も含めて、河井夫妻の事件では買収罪での有罪判決が確定したのである。

泉田氏が言及した「広島の事件」というのは、このように公職選挙における金銭のやり取りと公職選挙法の関係に重大な影響を与えるものだった。

それに対して、星野氏は「そんなことを言えばきりがない」「そんなもの話は表面の話」などと言っているが、それは、「河井事件で摘発されたようなことが買収に当たるとすれば、それを言い出したら“きりがない”ほど、そのようなことはどこでもかしこでも行われている」という意味のようにも思える。

それに続けて、「絶対ダメだよというのは当たり前」「裏は、みんなそういう世界」などと言っているのは、「法律的にはダメ(犯罪)かもしれないけど、みんなそういう世界でやってきたんだから、仕方がない」という意味のようにも思える。

自民党新潟県連の最古参の県議会議員の発言なので、それがこれまでの「自民党選挙」の実態を踏まえた発言だとすると、極めて重要な意味を持つものと言える。

泉田氏と星野氏のやり取りは、河井事件で政治家間での「選挙に関する金」のやり取りが買収罪で摘発されたことが、地方での自民党政治家の選挙活動に重大な影響を与えていることを表しているのではないだろうか。

(『権力と戦う弁護士・郷原信郎の“長いものには巻かれない生き方”』2021年12月15日号より一部抜粋。続きは、2021年12月中にお試し購読スタートすると、12月分の全コンテンツを無料(0円)でお読みいただけます)

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1955年島根県松江市生まれ。1977年東京大学理学部卒業。鉱山会社に地質技術者として就職後、1年半で退職、独学で司法試験受験、25歳で合格。1983年検事任官。公正取引委員会事務局審査部付検事として独禁法運用強化の枠組み作りに取り組む。東京地検特捜部、長崎地検次席検事等を通して、独自の手法による政治、経済犯罪の検察捜査に取組む、法務省法務総合研究所研究官として企業犯罪の研究。2005年桐蔭横浜大学に派遣され法科大学院教授、この頃から、組織のコンプライアンス論、企業不祥事の研究に取り組む。同大学コンプライアンス研究センターを創設。2006年検事退官。2008年郷原総合法律事務所開設。2009年総務省顧問・コンプライアンス室長。2012年 関西大学特任教授。2017年横浜市コンプライアンス顧問。コンプライアンス関係、検察関係の著書多数。

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