3.笑顔が競技にもたらす効果
2022北京冬季五輪、カーリング女子の日本チームは銀メダルだったが、笑顔の採点があれば金メダルを獲得したに違いない。アスリートが笑顔を心がけるのには理由がある。笑うと、脳波の中でもアルファ波が増えて脳がリラックスするほか、意志や理性をつかさどる大脳新皮質に流れる血液量が増加し、脳の働きが活発になる。
また、笑うことで交感神経が促進した後、急激に低下するので、リラックス効果をもたらす。更に、笑っているときは心拍数や血圧が上がり、呼吸が活発となって酸素の消費量も増える。笑うだけでトレーニングになるのだ。
脳内ホルモンであるエンドルフィンも笑いによって分泌が増える。この物質は幸福感をもたらすほか、“ランナーズハイ”の要因ともいわれ、モルヒネの数倍の鎮静作用で痛みを軽減する。日本女子カーリングチームが笑顔を絶やさないことは、フィジカルとメンタルの両面で競技に対して有利に機能しているのである。
4.笑顔がもたらす濃密な空間
日本女子カーリングチームの笑顔は、コミュニケーションツールとしても機能していた。様々な相談や指示、アイコンタクトにも笑顔が加わると、相手に許容されたような印象を受ける。笑顔には笑顔で返すので、双方が相手を信頼し、相手を許容することができるのだ。
更に、笑顔のコミュニケーションの濃度が高まってくると、チームの空間が濃密になり、周囲から独立した空間が構成される。これは、村社会、共同体社会に育った日本人ならではのものではないか。
海外のチームは、多くの場合真剣な表情を崩さない。そして、日本人ほど会話することもない。なぜなら、それぞれが役割を持ち、その責任を果たしているから、会話する必要もないのである。
しかし、日本チームは互いに役割分担するよりも、互いの役割を常に共有し、相手に問いかけ、相手を許容している。その結果、相互の笑顔、相互の対話によってチーム全体が常に一つに空間で包まれる。
これはチームワークという概念を超えている。チームワークとは、勝利のためにチームが機能することだ。しかし、日本チームはチームでいることが目的であり、挑戦することが楽しみなのだ。勝利は結果に過ぎないのである。
■編集後記「締めの都々逸」
「笑顔交わせば 何でもできる そして笑顔が 待っている」
日本女子カーリングチームの笑顔は誰に向けられたものなんだろう、とテレビを見ながら考えました。勿論、相手に向けた笑顔ではありますが、自分に向けられた笑顔でもあります。
何かの役割を果たすとき、西欧人は真面目で真剣な表情になりますが、日本人は笑顔になることもあります。勿論、真面目な表情もありますが、真面目な顔から一転して笑顔になると更に強い気持ちが持てるようです。
笑顔は神が降りてきた印なのかもしれない、と思います。笑顔に笑顔で返すことは、互いに神の領域に入っていくことかもしれません。結果が出て、泣いた瞬間に人間に戻ったんだなと思います。笑顔には最強のパワーがあります。(坂口昌章)
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