トヨタの大失態。米テスラを甘く見ていた大企業が陥る“周回遅れ”

 

Tesla(2003年~現在)

Teslaは、今ではイーロン・マスクの会社として知られていますが、イーロン・マスクは当初の創業メンバーには加わっていません。Tesla(当時はTesla Motors)を創業したのは、Martin EberhardとMarc Tarpenningで、最初は資金力も乏しい、しがない「EVベンチャー」でした。EV1の失敗を見た投資家たちがTeslaのサポートを拒む中、彼らはイーロン・マスクに直々に資金の提供を願い出ました。

当時、イーロン・マスクは、Paypalの売却で得たお金を使ってSpaceXを立ち上げる準備をしていましたが、Teslaの創業メンバーの熱意に打たれ、$6.5millionを提供して会長になり(2004年)、その後TeslaのCEOになったのです(2006年)。

イーロン・マスクは、CEOになった2006年に“Master Plan”と名付けられた企業戦略を立てましたが、そこには、まずは高級車でビジネスを立ち上げ、そこから生まれるキャッシュフローで大衆車を大量生産する、と宣言しました。

  • Build sports car
  • Use that money to build an affordable car
  • Use that money to build an even more affordable car
  • While doing above, also provide zero emission electric power generation options

このMaster Planに基づき、Teslaはまずは超高級スポーツカーのRoadStarを発売し(2008年)、次に高級セダンのModel S(2012年)、高級SUVのModel X(2015年)を発売し、それが後の(大衆車である)Model 3とmodel Yの発売に繋がりました。

そのプロセスで、Teslaは何度も倒産しそうになり、その度にイーロン・マスクは私財を注ぎ込んで救済したり、スティーブ・ジョブズばりの現実歪曲空間を作って、資金集めをしました。

イーロン・マスクは、この激務を、同じく何度も倒産しそうになったSpaceXのCEOと兼務していますが、彼の超人的な活躍が無ければ、Teslaはとっくの昔に資金切れで倒産しています。

トヨタ RAV4 EV(2012年~2014年)

トヨタ自動車も、そんなTeslaに資金を提供したメンバーの一人でした。2010年に$50millionをTeslaに投資し、電気自動車の共同開発を始めたのです。GMがEV1の生産を終えてから11年が経っていましたが、リチウムイオン電池の価格も下がり始めていたので、トヨタ自動車としても、「電気自動車でビジネスが出来るかどうか」と試したかったのだと思います。

Teslaが電池・駆動系・ソフトウェアを提供し、トヨタが製造・販売するという形で発売されたRAV4 EVは、航続距離、103mi(166km)を持ち、$42,000で2012年に発売されました。

生産は3年間続きましたが、結局2,600台しか生産されず、2014年に生産中止に追い込まれました。GMのEV1と同じく、失敗に終わったのです。

トヨタ自動車は、この失敗を受け、「電気自動車はビジネスにならない」と結論付け、Teslaとの提携を解消し、株も売却してしまいました。

資金力に乏しいTeslaが、倒産寸前に追い込まれながらも頑張り続けた姿勢とは大きく異なります。それは「Teslaには電気自動車しかなかった」のに対し、トヨタ自動車は、ガソリン車でしっかりと利益を上げていたし、世界に先駆けて開発したハイブリッドへの投資が実を結びつつあったので、無理をして電気自動車を作り続ける必要はないと判断したのです。典型的な「イノベーションのジレンマ」です。

水素・燃料電池戦略ロードマップ(2014年)

GMがEV1から撤退し、TeslaがEV市場の立ち上げに四苦八苦している時、日本の資源エネルギー庁が「水素・燃料電池戦略ロードマップ」という長期計画を発表しました。これは、小泉政権時代に米国との間で結ばれた「水素社会に向けた日米合意」に基づくもので、地球温暖化に加え、安全保障の観点から、日本のエネルギーの自給率を高めるという大きなビジョンに基づいて作られたものです。

しかし、今になってこのロードマップを読むと、色々と綻びが見えます。電気自動車が水素自動車のライバルとして台頭してくることなど想像もしていなかったし、最も重要な水素の調達に関しても、とても楽観的です。「地球温暖化対策」と「エネルギーの自給率」を重視した計画のはずなのに、石油ベースの水素(いわゆるグレー水素)に頼り切った計画です。当時、既に地球温暖化は十分に注目を集めてはいましたが、それほどの緊急性を感じてはいなかったのだと解釈出来ます。

ちなみにこの資料には、水素ステーションの設備費が4~5億円、(減価償却費を含まない)運営費が年間4,000万円という試算が示されています。日本には、2021年末の段階で全国に156ヶ所の水素ステーションがあります。

世界の未来を予測するエンジニア・中島聡さんのメルマガご登録、詳細はコチラ

 

print
いま読まれてます

  • トヨタの大失態。米テスラを甘く見ていた大企業が陥る“周回遅れ”
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け