トヨタの大失態。米テスラを甘く見ていた大企業が陥る“周回遅れ”

 

トヨタMirai(2014年~現在)

日本政府のロードマップに従い、トヨタ自動車が2014年に発売した水素自動車が、Miraiです。航続距離は502km(312 mi)、発売当初の価格は、$57,400でした。タイミングから考えて、Teslaと電気自動車を共同開発しながら、水素自動車の開発も並行して進め、水素自動車の実用化の目処が立ったところで、Teslaとの提携を解消したと解釈して良いと思います。

日本政府は、補助金をばら撒いて日本各地に水素ステーションを作らせ(次世代自動車振興センターに掲載された「燃料電池自動車用水素供給設備設置補助事業の概要」によると水素ステーションの設置コストの半分~3分の2が税金で補助されるそうです)、さらに水素自動車を購入する消費者に対しても補助金を提供して、水素自動車の普及を測りましたが、2021年までの9年間に販売されたMiraiは、わずか17,940台です。

この台数から見る限り、水素自動車もEV1やRAV4 EVと同じく「失敗」の烙印を押されて生産中止に追い込まれても仕方がないような状況です。トヨタと同様に水素自動車を開発していたホンダは、今年になって正式に水素自動車からの撤退を発表しましたが、トヨタ自動車は、(少なくとも表面上は)まだ頑張り続けるようです。

Tesla Model 3(2017年~現在)

イーロン・マスクが立てたMaster Planに基づいて、Teslaが2017年に発売したのがModel 3です。ベースプライス$35,000の普及モデルです。

発売は当初の予定から2年以上遅れ、生産ラインもまともに動かず、この時期がTeslaにとって最も厳しかった時期です。イーロン・マスクは、「Teslaは自動車を作る会社ではない。自動車の製造ラインを作る会社だ」と宣言し、莫大な資金を投入して、リチウムイオン電池の大量生産を行うギガファクトリー、世界初の充電ステーション・ネットワーク、ロボットによる自動化された生産設備を作りましたが、肝心の生産設備がトラブル続きで思うように動かず、危なく資金切れになるところだったのです。

当時、私はメルマガで「Teslaに必要なのは潤沢な資金のみ、AppleはTeslaを買収すべき」と書きましたが、最近のイーロン・マスクの発言によると、当時本気でAppleへの売却を考慮していたそうです(参照:「Elon Musk claims Tim Cook refused to meet with him to discuss buying Tesla」)。

“During the darkest days of the Model 3 program, I reached out to Tim Cook to discuss the possibility of Apple acquiring Tesla (for 1/10 of our current value),” Musk said in a tweet. “He refused to take the meeting.”

Teslaは、2017年にはModel 3を2,685台しか販売することは出来ませんでしたが、イーロン・マスクの常人離れした執念で生き残り(Tencentなどが資金を提供「Chinese internet Giant Tencent buys 5% of Tesla」)、2019年には危機を脱し、2021年にはModel Yと合わせて年間100万台近くを売る会社に成長しました。

ここで重要なことは、Teslaというベンチャー企業が、GMにもトヨタにも実現出来なかった、「電気自動車の大量生産・販売」に成功した、という事実です。「大量生産をしなければ値段が下がらず、市場が立ち上がらない」という「鶏と卵問題」を、大企業にも出来なかった莫大な投資をすることにより、乗り越えることに成功してしまったのです。

別の言い方をすれば、今起こりつつある「EVシフト」は、Teslaという会社の存在が(もっと正確には、イーロン・マスクという存在が)あったからこそ起こっているのです。Teslaなしでは、EVシフトは10年以上遅れていた可能性が大きいと私は見ています。

ちなみに、イーロン・マスクは、年利50%という異常なペースで生産台数を増やすと宣言していますが、既に2022年と2023年に、そのペースを実現するための生産設備の投資(ベルリン、上海、テキサス工場への莫大な投資)は着実に進んでおり、このペースに他の自動車メーカーが追いつくのは「至難の業」と言って良い状況です。GMは、2021年の11月には、世界一の電気自動車メーカーになると宣言しましたが、私も含め、Teslaウォッチャーの大半は「絵に描いた餅」だと笑い飛ばしています(参照:「Tesla’s Elon Musk Responds To General Motors ‘Leading’ In EVs」)。

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