京大教授と“宿敵”竹中平蔵との対談で判った新自由主義のヤバさ

 

あるいは、当方は、「現実」に事後チェックが出来ない状況があるのだから、そんな状況で規制緩和を推し進めれば、デメリットが優越するケースが頻発するじゃないかという指摘に対して、「事後チェックは必要ですよ」とおっしゃるだけで、特に具体的に事後チェックをどうすべきかを主張されなかったのも問題です。

これは典型的な誤魔化しであり、論点のすり替えであり、これもまた詭弁でしかありません(それはちょうど、「コロナで徹底自粛させても、政府が徹底補償すればいいんだから、徹底自粛させろ!」と言ってた輩達と同じ構図です。そもそも政府が徹底補償等する筈がないことが分かっていたのに、徹底自粛しろなんて言えば、結局、民が苦しむ他無かったのであり、実際そうなっているわけですから)。

ただし、これらの詭弁よりもより恐ろしいと感じたのは、やはり次の一点でした。

「規制緩和すべきだという思い込みもあるが、規制緩和は悪いものだ、という思い込みもある。この後者の思い込みが、必要な規制緩和を阻んでいる」

当方は、これはやはり極めて危険なご発言だと思い、次の様な反論をいたしました。

「そもそも、制度というものは、『伝統・文化』そのものです。それは、長い歴史をかけて、それぞれの地で発展してきたものです。そして、規制緩和というのは、結局は、こうした伝統・文化の形を変えるという話をしているんです。だから、それに対して人々が危険だと抵抗し、そういう規制緩和を危ないものだと『思い込む』ことは当たり前の話です。というよりむしろ、そういう『思い込み』こそ、伝統や文化の本質とも言える。だからもし本当に伝統・文化の形を変えるのならば、余程の正当化の論拠が無ければならない」

この反論に対して、竹中氏は表面的には「おっしゃる通り」と同意はされました。

が、最後まで、規制緩和に対して抵抗する人々の「思い込み」が問題であり、それが故に合理的な議論ができなくなっているのだ、という姿勢を崩されませんでした。

これは要するに、

  • 竹中氏は、規制緩和というものは、伝統や文化を変えるものであるということを知っている
  • ただし、そういうものを変える事についての心的反発は、不合理なものであると考えている

ということを意味しています。ということは要するに、竹中氏は、「大企業が運営するウーバーイーツが蔓延り、ライドシェアが蔓延る一方で、地元の産業やそれに付随する文化や伝統がなくなっていくような社会が理想の社会であり、そういう方向に社会を変えていこうとしている」ということを、約1時間弱の議論全体をとおして最後の最後に直接ご主張されたわけです。

これは極めて危険な思想だと思います。

すなわち、竹中氏は、おっしゃることに詭弁やウソが含まれているというところに問題があるというよりもむしろ、「人々が何百年、何千年と育んできた伝統・文化を破壊しながら、大企業が効率よく財やサービスを提供する社会を理想の社会だと捉えている」という点にこそ、氏の本質的な問題、つまりは「ヤバさ」の本質があったわけです。

そして、竹中氏は、その理想を実現するために、時に詭弁すら厭わず、あの手この手で活動を続けておられる、というところが、氏のヤバさをさらに際立つものにしている、と言えるわけです。

当方は、この討論を、その事実を認識し、心底恐ろしい思想をお持ちの方であると戦慄を持って終えた事を鮮明に記憶しています。

当方が感じた竹中氏の恐ろしさ、あるいはヤバさを、TVやネット視聴だけでは認識できなかった、という方も多かったかも知れませんが、その一方で逆に、当方と同じように、そのヤバさ、恐ろしさを、この討論のご視聴を通して深く認識された方も数多くおられたものと思います。

「TV局の立場」としては、その判断は全て視聴者に委ねたいとは思いますが、「言論人」としての当方としては、後者のヤバさ、恐ろしさを改めて認識した方もまた多くおられたとすれば、大変に嬉しく存じます。

ついては、是非、こうした解説も踏まえた上で、本番組、改めてご覧頂ければとおもいます。

(メルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~』2022年3月26日号より一部抜粋・敬称略。この続きはご登録の上、お楽しみください)

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image by: World Economic ForumCopyrigh World Economic Forum / Photo by Natalie Behring, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

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京都大学大学院・工学研究科・都市社会工学専攻教授、京都大学レジリエンス実践ユニット長。1968年生。京都大学卒業後、スウェーデンイエテボリ大学心理学科客員研究員,東京工業大学教授等を経て現職。2012年から2018年まで内閣官房参与。専門は、国土計画・経済政策等の公共政策論.文部科学大臣表彰、日本学術振興会賞等、受賞多数。著書「プライマリーバランス亡国論」「国土学」「凡庸という悪魔」「大衆社会の処方箋」等多数。テレビ、新聞、雑誌等で言論・執筆活動を展開。MXテレビ「東京ホンマもん教室」、朝日放送「正義のミカタ」、関西テレビ「報道ランナー」、KBS京都「藤井聡のあるがままラジオ」等のレギュラー解説者。2018年より表現者クライテリオン編集長。

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【著者】 藤井聡 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 土曜日

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