プーチンはどう動く?フィンランドとスウェーデンNATO加盟に反対するトルコの思惑

 

トルコの思惑

しかし、フィンランドとスウェーデンのNATOの加盟に「待った」をかける国が存在する。トルコだ。NATOへの加盟申請には現在の加盟国30カ国の全会一致での合意が必要。トルコが拒否し続ければ、それだけ加盟への道は遅れる。

トルコが拒否をする理由の背景に「クルド人問題」がある。トルコは長年にわたり、少数民族であるクルド人の分離独立運動に対してきた。

トルコのエルドアン大統領は、フィンランドとスウェーデンの2カ国が過激な分離主義組織であるクルド人労働党(PKK)と関係のある難民をかくまい、送還を拒否していると主張する。

さらに大統領が問題視しているのは、彼の政敵であり、2016年に起きたクーデター未遂事件の首謀者であるフェトフッラー・ギュレンの支持者たちが多数、スウェーデンに逃れていることだという。

クルド人とは、旧約聖書に記載のある「クルディスタン」と呼ばれる、韓国と北朝鮮を合わせた程度の広大な山岳地帯を本拠とする、インド・ヨーロッパ語族の民族。

「少数民族」といわれるものの、その人口は全世界で5,000万人を超え、中東ではアラブ人、トルコ人、ペルシャ人につぐ一大勢力を擁する。しかし、彼らには「祖国」は存在しない。

第1次世界大戦中の1916年に英国、フランスとロシアの3か国の間で交わされた「オスマン・トルコ」分割解体の密約「サイクス・ピコ協定」と「バルフォア宣言」、「フサイン・マクマホン協定」の3枚舌外交により、この地は帝国主義強国の間で勝手に線引きされた「国境」で分割されてしまい、クルディスタンの故郷は21世紀の国家の名で言えばトルコ、シリア、イラク、イランそしてアルメニアと八つ裂き状態にあり、クルド人は各国で少数民族化。

クルド人はどこでも「民族主義者」「分離派」などのレッテルを貼られ、独立を求める勢力は「テロリスト」とされる場合が多い。これに対してスウェーデンやフィンランドは、あらゆる難民に門戸を開く。結果的にトルコから「テロリスト支援」などと反発を招いた。

今後の動向

今後、フィンランドとスウェーデンのNATOへの加盟はスムーズに進むのだろうか。通常、NATOへの加盟については、申請から4カ月から1年程度かかるとされる。

ただ、NATOへの加盟の方針を明らかにしたウクライナがロシアによる侵攻を受けた一方、フィンランド、スウェーデンともにNATOへの加盟申請をしてから、正式に加盟を認められ集団安全保障の対象になるまでの間に、ロシアからの軍事的な脅威が高まるおそれも。

そのため、両国ともにNATO加盟を申請したあとは、“迅速な承認”を全加盟国に求めるだろう。

一方で、ロシアを刺激し、軍事的脅威の拡大をもたらすおそれもあり、承認に時間がかかる可能性もある。北欧地域において、新たに紛争のリスクも起きかねない。

フィンランドの野党第1党「国民連合」の外交政策顧問を務めるヘンリ・バンハネン氏は、NATOへの正式加盟が認められるまで、

「第5条による安全保障が得られないことは誰もが理解している。(しかし)だからといって、ほかの方法で地域の安全保障を改善できないということはない」(日経ビジネス、2022年5月12日)

と述べ、

「政治的な宣言、情報交換や、バルト海での演習など防衛面での協同活動を増やすことなどができる」(日経ビジネス、2022年5月12日)

とする。ただ、フィンランドの政府関係者は、これまでにロシアがさらに多くの挑発行為をしてこなかったことがむしろ不思議だとも話していた。

一方、ロシアは、バルト海沿岸の飛び地カリーニングラードへの核兵器配備を示唆。しかし、リトアニアによると、2018年にすでに配備されていた可能性があるという。

参考文献

● 清水謙「スウェーデンはいかに危機に対処してきたか──すべては自国の安全保障のために」SYNODOS 2014年9月4日
● 「情報BOX:フィンランドとスウェーデン、NATO加盟の展望」ロイター 2022年4月15日
● 木内登英「フィンランドとスウェーデンのNATO加盟申請が新たな紛争の火種に」NRI 2022年4月18日
● ファイナンシャル・タイムズ「ロシアに侵略されても備えはできている 最強の防衛戦略を持つ『軍事大国』フィンランド」COURRiER JAPON 2022年4月23日
● 「フィンランドとスウェーデン、北欧2国が抱えるNATO加盟のジレンマ」日経ビジネス 2022年5月12日
● 田嶋知樹「中立掲げて200年、スウェーデンの生存戦略 『平和国家』の裏の顔」朝日新聞デジタル 2022年5月14日

● 「スウェーデンとフィンランド、NATO加盟申請を正式決定」BBC NEWS JAPAN 2022年5月16日
● 「【詳しく】フィンランドとスウェーデン NATO加盟なぜ目指す?」NHK NEWS WEB 2022年5月16日
● Julie Coleman「スウェーデンとフィンランドの加盟でNATOが得るものは…強力な陸・海・空軍に加えて「情報分野でも多くのものをもたらす」と専門家は分析」BUSINESS INSIDER 2022年5月17日

(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年6月5日号より一部抜粋)

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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