中国と衝突、ロシアに資金援助。外交的取引で復権を狙うトルコ・エルドアン大統領の企てと焦り

 

その典型例が中央アジア・コーカサス地方への勢力拡大です。まだ記憶にも新しく、かつ今でもロシア・ウクライナ戦争の背後で火種が燻るナゴルノカラバフ紛争では、同じトルコ系でイスラム教徒のアゼルバイジャンを全面支援し、最新鋭の無人ドローン兵器をはじめ、アルメニアを圧倒する兵力を与えることで、ロシアからアゼルバイジャンを奪い取った形になりました。

一応、停戦合意上は、【ナゴルノカラバフはロシアとトルコが平和維持部隊を駐留させて紛争の再発を防ぐ】とのアレンジになりましたが、実質的には、ロシアはウクライナ戦争で忙しく、ナゴルノカラバフ地方はもちろん、アルメニア(ロシアと軍事同盟を結んでいたが、最近になってあからさまにロシアへの不満を述べている)にも影響力を拡大するようになっています。

昨年には自らが主宰する形でトルコ系人民が暮らす国々と協力関係を結び、これまで北西(欧州)に向いていた関心を、一気に東に向けて勢力拡大に乗り出しています。

その動きは、中央アジアを自らの裏庭と認識して縄張りを主張するロシア・プーチン大統領を苛立たせるには十分すぎるほどだと思われますが、2014年のクリミア併合以降、スランプに陥るロシアには、裏庭の手入れをする余裕はなく、トルコ勢力の“侵入と拡大”を阻止できていません。

中央アジアといえば、最近、影響力を一気に拡大しているのが中国です。数本あると言われている回廊(一帯一路)の北ルートは中央アジア諸国を通るデザインになっており、実際に中国からの資本・投資が拡大し、ロシアの裏庭を同じく浸食しています。

ここでトルコと中国がぶつかり合うことになりますが、トルコとロシアの間の関係によく似て、衝突と協力が入り混じった持ちつ持たれつの関係になっているように思われます。

例えば、中央アジアにおける勢力争いは過熱化していますが、経済面ではパイを分け合うような動きも見せています。

しかし、問題がウイグル民族の扱いとなると、両国は真っ向から対立することとなります。最近も中国政府からトルコ領内に逃げ込んだウイグル人(東トルキスタン・イスラム運動‐ETIM)の中国への引き渡し要請がトルコ政府に対して行われましたが、エルドアン大統領は明確に拒否し、関係悪化の懸念が強まっています。

しかし、どうしてここまでこだわるのでしょうか?

1つは新疆ウイグル自治区のウイグル族は、実はトルコとは民族、言語、そして宗教(イスラム)面で同系統とされ、先述のように、トルコ系の勢力を終結させて一大勢力にまとめたいエルドアン大統領としては、アゼルバイジャン人と同じく、同胞として守るべき対象と認識することになります。

2つ目は、大統領選挙が行われるまでに(遅くとも6月末までに)、「ロシアにも米国にも、そして中国にも真正面からモノ言うリーダー」という“強い外交ができ、トルコを再び輝かせることができるリーダー”というイメージを鮮明にしたいとういう狙いもあるようです。

ただし、気を付けたいのは、トルコはべつに中国と対立したいのではないということです。

米中対立が激化の一途を辿る中、NATO加盟国内で“反中国の機運”が高まっても、トルコ政府は一度も反中国の立場を取らず、対話と相互理解による緊張緩和を訴え続けており、また中国政府が執る新疆ウイグル自治区への対応に対しても一定の理解を示しているため、中国政府もその点を評価し、トルコを敵視することはなく、デリケートなバランスに立脚した関係を認め合っています。

その最たる例は、中国政府はトルコ政府によるクルド人への攻撃に対する非難は行わず、エルドアン大統領が訴えかけるクルド人に対する“懸念”に理解を示しています。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

 

print
いま読まれてます

  • 中国と衝突、ロシアに資金援助。外交的取引で復権を狙うトルコ・エルドアン大統領の企てと焦り
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け