中国と衝突、ロシアに資金援助。外交的取引で復権を狙うトルコ・エルドアン大統領の企てと焦り

 

そのクルド人問題を巡って、トルコはまた様々な外交的な取引を繰り広げています。

欧米からの制裁の一因となり、かつプーチン大統領にも窘められた“シリア領内のクルド人居住地への越境攻撃”以降、緊張関係が続いていたシリア政府とも、急に対話を持ち掛け、トルコ政府によるダマスカス(アサド政権)への不干渉を確約する代わりに、アサド政権にトルコによるクルド人問題の“解決”を黙認することを飲ませています。

シリアとトルコの停戦を担ったプーチン大統領は、ウクライナ戦争の実行と国際社会への対応に手がいっぱいであるため、エルドアン大統領とアサド大統領との取引に口出しも手出しもできない状況で、アラブ諸国およびアフリカへの勢力拡大に乗りだすプーチン大統領としては不本意ながら、黙認するしかない状況に陥っています。

先のカショギ問題の手打ちを通じて、トルコ批判の矛先を収め、スンニ派諸国を纏めてトルコとの友好関係を築いたサウジアラビア王国も、国内の人権問題に一切口出ししないことを条件に、エルドアン大統領によるクルド人勢力の駆逐を黙認するという取引を成立させています。

また経済的に孤立を強いられつつあったロシアに手を差し伸べ、必要な物資をロシアに供給する代わりにエネルギー資源を安価に手に入れるというdealを成立させることで、インドと共に物流のハブの立場を獲得し、物資を原資に新たな勢力圏の中心に座ろうとしています。

それが新たな自信となったのか、または既得の取引カードを最大限活用して欧州と米国を困らせたいのか、フィンランドとスウェーデンのNATO新加盟申請(注‐加盟国の全会一致が要件)への支持を出したり引いたりしながら、両国が匿うクルド人勢力のトルコへの送還を求めて、NATO内での結束を乱して、トルコの要求を叶えさせようという取引を行っています。

NATO憲章の改定にも加盟国の全会一致の合意が必要となるためトルコ外しは不可能であり、かといってトルコをNATOから排除することも、バイデン大統領(トルコ・エルドアン嫌い)が“まるで囲いの虎を野に放つのと同じ”と例えるように、NATOにとっても、まだまだ足並みがそろわない欧州各国にとっても、トルコを囲いの外に出すことは、すぐ隣に強力な敵対国を作ることに繋がりかねないため、法的な根拠とともに、伸びつつあるトルコの外交・経済・軍事力、そしてトルコ系の連帯という力の源泉を前に、強硬手段に訴えられなくなっています(そしてウクライナ紛争に欧米諸国が注力しているため、今、トルコに構っていられないという実情もある)。

ロシアを経済面で助け、トルコ系の周辺国を束ねてロシアと欧米諸国との間に壁を作ることで、ロシアへの発言権を強めているトルコは、同時に中国とも中央アジアを“折半”する状況を作ることでデリケートな距離感の下、衝突を回避するという姿勢を確立させていることで、次第に【ユーラシア大陸において中ロの間に入って利益を確保し、影響力を拡大するバランサーとしての立ち位置】を確立するようになってきていると見ています。

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