それどころか、日銀は異次元緩和を軌道修正することなく、長期金利(10年物国債金利)においても、0%に抑え込む「イールドカーブコントロール(YCC)にまで乗り出してしまいました。そのため、短期のマイナス金利の副作用はすべての金融機関に及び、金融機関の収益圧迫が日本では深刻化しています。
また、物価急騰の欧米では利上げが続けられる中、2022年10月21日の外国為替市場では、ドル円相場で151円90銭台の円安を招くなどで、2022年度は20兆4000億円もの貿易赤字になっています。そのせいで、経常収支の黒字幅も大きく縮小しているのです。経常赤字に突入したら、超円安が常態化します。
ドル円相場が、151円台の安値を付けるのは、1990年7月以来32年ぶりのことで、一時は今後どうなるのか──とまで懸念が広がりました。円安による物価高騰に、食糧価格やエネルギー価格の高騰といったコストプッシュインフレに見舞われる中、日銀は欧米のような金融引き締めによる対応も一切出来ない状況──といった有様なのです。
世の中に出回る「お金」は低金利でも大して増えなかった!
結局、日銀は金融市場から国債を買い入れ、マネタリーベース(日銀の当座預金中心の通貨供給量)は増やしてもマネーストック(経済全体の通貨供給量)は増やせませんでした。ゆえに日銀は90年代から陥った「流動性の罠」から逃れられなかったのです。
「流動性の罠」とは、金利が異常な低水準になると、中央銀行がいくら資金を供給しても、景気刺激効果がなくなることを意味します。かつて、ケインズはこの状態では金融政策で貨幣供給量(マネーストック)を増やしても無駄で、大規模な財政政策で需要を喚起するしかない──と説いていました。
これは減税や社会保険料の軽減、財政出動による大胆な失業対策などを意味するのです。しかし、安倍政権は二度に渡る消費税増税で、景気失速に導いて、これに応えたのでした。やってることはアベコベです。
実際、日銀のマネタリーベース(日銀券発行高+貨幣流通高+日銀当座預金残高の通貨供給量)はどんどん増やしても、マネーストック(経済全体の通貨供給量)は、ほとんど増えなかったのが実情でした。世の中に需要がないのですから当然です。低金利政策で金融機関の収益だけを圧迫してきただけなのです。
以下をご覧ください。マネタリーベースは4・78倍に膨らんでも、マネーストックは1・35倍にだけ増えたにすぎなかったのです。
- 2013年3月の異次元緩和前のマネタリーベース 135兆円
- 2023年3月のマネタリーベース 646兆円(4・78倍)
- 2013年3月の異次元緩和前マネーストック M3・1152兆円
- 2023年3月のマネーストック M3・1565兆円(1・35倍)
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