もはや昭和の頃とは別の国。日本で「桁ちがいの格差」が急拡大している理由

 

昭和末期とは別の国。拡大する「桁が違う格差」

まず1番目は、現実的に正規雇用と非正規雇用という階層が固定化されつつあるということです。もっと言えば、多国籍企業や大都市の正規雇用者が現代日本では貴族階級に属し、国内産業や地域企業の正規雇用がその次の階層で、非正規雇用は先進国経済の水準から大きく離された全く別の階層になっています。

このシステムには、強い硬直性があります。とにかく階層上昇が難しいのです。まず学歴の選別があり、その上で正規雇用に関しては20代を過ぎると入り口が閉じてしまいます。例えば35歳で「一度も正規雇用の経験がない」人材には、正規雇用の門戸は開かれません。

理由としては、スキル不足という建前で語られることが多いのですが、本当は違います。本音の部分としては、35歳ぐらいまで非正規の現場で苦労した人材は、本当の意味で自立した個人になっています。そうすると「職種と責任範囲が曖昧な中で、役員候補だという夢を人質に取られながら、ユーティリティープレーヤとして消耗に耐えつつ、社内政治レースに参加する」というバカバカしいモチベーションを持つように洗脳することが不可能だからです。

固定化ということでは、階層の世襲ということがあります。大学教育を受けるためには、高校段階での教育では受けられないスキルで選別されます。また高校に入学するためにも、正規の中学のカリキュラムだけでは教えられないスキルが求められます。都市部の場合では、中学受験をしないと貴族コースに乗れない状況もあります。

そのために、各家庭は、それぞれが経産省所轄の塾などの無認可施設で無資格教員から訓練を受けるために多くの費用を負担させられます。大学入試や中学入試は貴族階級に入るための科挙ですが、中国の歴代王朝における科挙は階層固定による貴族の退廃を防止する知恵でしたが、日本の科挙は貴族の世襲と保守化の温床になっています。

そう考えると、現代日本の格差というのは、人類の歴史の中でも相当にタチの悪い格差であると考えられます。問題はその格差がどんどん拡大しているということです。

「多国籍企業の給与水準は、国際競争力がないと優秀な人材が流出するので初任給が30万円、40万円、いや年収で400万、500万が提示されるようになってきたが、地方や中小の企業では初任給20万に据え置き。非正規の多くは相変わらず最低賃金」

これが2023年5月の現実だと思います。これだけでも大変な格差ですが、更にその差は広がる気配こそあれ、縮まるという動きはありません。例えばですが、2010年前後までは、日本の国内消費ということでは「先進国経済を謳歌して引退した団塊世代」の購買力が圧倒的で、高額消費の多くはこの層でした。ところが近年は、新たに30代から40代の高額消費が顕著に見られるようになっています。その結果として、消費の二極分化が激しくなっているのを感じます。

「地上波では一食300円での家計のやり繰りが人気。一方で大都市のグルメ寿司店などでは、おまかせで一人3万円以上のコースを出す店が増加」

「地方では100万の軽四を中古で買う人が多いのに、都市部では600万のテスラが人気」

「家族連れ向けに一人6,000円のチェーン温泉旅館が増える(買収再生物件)一方で、一人6万円の露天風呂付きスイートの宿も人気」

「連休に家族で3万円の国内旅行か、それも不可能な層が多い一方で、GWにハワイで500万円を使う家族も増えており、日系航空会社の便はほぼ満席」

「奨学金ローンの返済に苦しむ層が増える一方で、4年間で5,000万という海外留学が静かなブームに」

というような「倍とか3倍」ではなく、「1桁あるいは2桁」の格差というような現象が出てきています。これは「1億総中流」などと(実態はまた別でしたが)いう言葉に妙な実感が出ていた昭和末期と比べると「全く別の国」であるように思います。

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