もはや昭和の頃とは別の国。日本で「桁ちがいの格差」が急拡大している理由

 

2023年現在の「日本型格差の本質」

日本の場合は、このような格差が顕在化していないこともあり、また損をしているグループの異議申し立てがないこともあって、問題が大きくなっていません。異議申し立てについては「すれば20世紀の左派的で尊大で経済合理性を欠くグループ」と混同されるか、「そっち系」に持って行かれるという困った問題が足を引っ張っていることもありますが、問題は「見えない」ことです。

「定時出勤の時間帯に、ネクタイやスーツ姿で通勤している人は半数が非正規で、正規労働の多くはまずジムに行くのでカジュアル、もしくはテレワーク」

「コンビニの店員でも、日本語発展途上の外国人は将来のエリート候補。一方で丁寧な日本語のためにメンヘラ客のカスハラ銃弾を浴びている人は、非正規でキャリアパスは限定的」

「窓口業務で正確にハイレベルのサービスを提供している人は非正規で、その向こうのデスクでモニターを見つめるだけの人は正規雇用、年収差は恐らく3から5倍」

というような現象があるように思います。格差が「見える」社会であれば良いのかというと、それこそ暴動や治安悪化と隣合わせになるのは困ります。ですが、現在の日本のように格差が「可視化されない」ことで政策の争点にすらならないというのも困ります。4月の統一地方選や衆院補選でも、格差は争点にはなりませんでした。勿論、左派政党が高齢の「先進国経済謳歌世代」に支えられているということもあります。ですが、ここまで「格差が可視化されない=隠されている」というのも問題だと思います。

ここまで格差に関するお話をしてきました。これはあくまで序論です。こうした現象も日本独自のものであり、日本型格差の一つの側面ではあります。ですが、ここからが本論になります。何故、日本では格差が拡大しているのかということです。その大きな原因は空洞化にあると考えます。つまり、空洞化によって格差が拡大している、これが2023年現在の「日本型格差の本質」だと思います。

その前に、格差論議と同じように、空洞化についても「良い空洞化」と「悪い空洞化」があるいうお話をしておきたいと思います。と言いますか、通常の空洞化というのは、次のようなパターンになると思います。

「設計・生産をしていた国が経済成長しすぎて人件費が高くなったので、生産の部分を海外移転してコストダウン。設計と本社機構は元の国に残し、利益は元の国に還元」

「販売先の市場国で、雇用創出への圧力があり、現地生産へ切り替え。設計と本社機構は元の国に残して利益も元の国に還元」

「国の技術と経済が成長したので、旧技術による低付加価値製品の製造は生産性の高い他国に譲って、自国ではより高度で高付加価値な産業にシフト」

という3つです。欧州各国やアメリカは、このような空洞化を進めてきました。1980年代から90年代の日本も同じであり、当時はこのような考え方で、空洞化を押し進めていました。

アメリカや欧州との貿易摩擦が激しかったので、自動車を現地生産に切り替えたとか、自転車製造は台湾に譲り、造船は韓国に譲って日本は自動車にシフトしたとか、多くの製造業がアジア諸国に生産を移転したなど、20世紀までの空洞化は、この3つの公式に合致したものでした。良し悪しはありますが、合理性はあるわけで、この3つに適合するものは、とりあえず「良い空洞化」としておくことにします。

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