もはや昭和の頃とは別の国。日本で「桁ちがいの格差」が急拡大している理由

 

中韓に気前よく先端技術を生産ノウハウ込みで渡した日本政財界

続いて<8>は資金です。東芝の凋落は、経営陣に正しい意味でのグルーバルなリーガルマインドが欠けていて、311以降の世界的に厳しい原発規制に対するコスト負担を押し付けられたからです。ですが、それにしても日本にカネがあれば守るべき部分を守ることはできたはずです。シャープもそうですし、そもそも半導体の生産競争で完敗したのもカネがなかったからでした。

日本にカネがないのには、3つの理由があります。1つはバブル崩壊など、余剰資金を産業に投資しないで土地や株など投機に走ったからです。2つ目は、多くの企業や金融機関で最低限の英語力とファイナンス・リーガルのスキルに欠けているために、海外から資金調達するのができず、今となっては将来の更なる円安が怖くてできなくなっているからです。3番目は、個人金融資産が昔のようにワリコーなどリスクマネーにはならず、リスクを回避するようになったからです。これは資産家が高齢化して老後に「超長生きしてしまうリスク」をカバーするためにカネを溜め込んでいるからです。

例えばですが、2001年から数年間の「コイズミ改革」で郵貯の民営化が進められたのには、「巨額の個人金融資産を郵貯から解き放って」産業への投資に回そうという理論があったのです。ですが、改革に時間がかかる中で、このロジックは回りませんでした。

そんな中で、企業は余剰なカネを海外に持っています。日本経済そのものが衰退し、人口減で市場も縮小する中では、いくら海外で儲かっても、多国籍企業は日本国内にはマネーを還流させないのです。そもそもカネがなく、折角海外で稼いでもカネが来ないのですから、どうしようもありません。このマネーの空洞化は、最終的に円安を加速させ、更に資金の流出を加速する危険があると思います。

<9>は、余りにも安易な技術指導の結果です。韓国や中国に、製鉄や、エレクトロニクスの実装技術をホイホイ渡してしまい、今は、日本の方が押されるようになっています。70年代から90年代の日本の政財界は、本当に気前よく技術、それも先端技術を生産ノウハウ込みで渡していました。

当時の人達は、日本はその分だけ更に先端の技術でリードするつもりであり、国の経済を売り渡すという意識はなかったと思います。ですが、「造船は渡す代わりに自動車で大きな繁栄をつかんだ」ようには、なりませんでした。例えばエレクトロニクスでは「ハードは渡すがソフトで更に最先端へ」などということは、実現しませんでした。

そんな中で、多くの製造業では「低賃金に耐える職人的な町工場の部品産業」では競争力があるが、「中付加価値の生産ノウハウ」は残っていないということになっています。また、精密な機械の製造を行うような教育を受けた、しかもコスパの良い若い労働力もありません。ですから、円安と人件費低迷が続く日本でありながら、製造業の「国内回帰」はできないのです。

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