もはや昭和の頃とは別の国。日本で「桁ちがいの格差」が急拡大している理由

 

必要不可欠な「畳の上の水練」ではない英語教育

この経産省の言っていた「6重苦」の中で、現在大きな課題として残っているのは、残りの2つ、つまり、<4>の労働市場の硬直性と<6>電力供給だと思います。

まず<4>の労働市場の硬直性ですが、これは大きな問題です。正規雇用とすると解雇が難しい一方で、非正規雇用では優秀なスキルの人材は来ないということがまずあります。これに加えて、完全にスキルが時代遅れになった管理層や経営層が、判断をミスし続けるとか、時代に即応した動きができないということもあります。先端的なスキルを持っていても、若いというだけで高給を用意することができないので、人材が逃げるなど、多くの問題があります。確かに、人事制度の硬直性というのは、大きな要因だと思われます。

加えて<6>も大きな問題です。高齢者を中心に、東日本大震災を契機に「反原発」というカルチャー現象が拡大しました。一種の思い込みで「原発というケガレた罪深いものは、無くしてしまって、日本列島を自然に戻せば、自分は救われるが、そうでないと千の風になって成仏しないでグルグル回ってやる」というオカルト宗教のようなものです。問題は、政治家にも財界にもそうした世論を誠実かつ丁寧に説得する気迫に欠けていたことです。

そんな「面倒なこと」をするぐらいなら、安定した電力の必要な産業はソトに出してしまおうと財界が動いたのは事実であり、これは大変な話です。

ということで、経産省の言う「6重苦」は実は「2重苦」なのですが、これに次の4つが大きくのしかかっているわけです。通番で行きますと、<7><8><9><10>になります。

まず<7>は教育です。日本国内の教育は、全員が一律のカリキュラムで行い、10月1日から一斉に冬服に着替え、運動会の際には全員でラジオ体操をするなど、中付加価値の工場労働者を育てるだけの内容です。それでは、先進国型の人材は育たないので、大学などはそれなりに高度ですが、そこへ行くには塾に行く必要があるわけです。つまり、公教育では先進国型のエリート教育は禁止されています。

大学でも最新の技術を英語で学ぶ機会は広くはありません。ですから、80年代以降は、日本の高度な人材は大学院レベルでは英語圏などに留学していました。そして、今は、学部レベル、あるいは高校レベルでの留学が静かなブームになっています。私は、個人的に『アイビーリーグの入り方』という本を書いているように、個々人の若者が海外を目指すのは応援したいと思っています。

ですが、昨今の文科省のように、日本人50万人を留学させて、その代わり40万の外国人留学生を招くという奇々怪々な政策には反対です。日本が好きで、日本で学びたい若者の留学は大歓迎ですが、円安につられてやってきて、英語圏でのインターンのために3年生になる時には転校してしまうような安易な留学生にまで大金を投じるのはダメだと思っています。

問題はエリート層で、このまま静かに流出が続くと国益を大きく損ないます。それでも文科省が優秀な若者を海外に出そうというのは、建前としては海外で学んでそれを日本に持ち帰って欲しいというのはあると思います。ですが、年功序列の日本では、23歳とか25歳で英語圏で最先端技術を学んできた若者を「組織の中で使うノウハウもない」一方で、世界的な労働市場で競争力のある賃金を払うことも難しいでしょう。そうなると、出ていった若者の多くはは戻ってきません。文科省が分かってやっているのなら(分からないならそれも)、問題だと思います。

いくら「改革は大変で全員が不幸になる」という悲観論に負けそうになっても、やはり教育の改革は必要です。ジョブ型雇用を成立させるのも、リスキリングでの転職を成功させ、結果的に経済全体を底上げするにも、教育のアップデートが必須です。更に言えば、そこには、本当の、つまり畳の上の水練ではない英語教育が必要です。

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