プリゴジンを使い国内外を欺くという作戦に出たプーチン
ワグネルとプリコジン氏がベラルーシ国内に配備されたロシアの戦術核兵器にアクセスできるかどうかは確かに気になるところですが、それ以上にルカシェンコ大統領の“発言内容”が気になります。
ルカシェンコ大統領は本気でそう考えているのか?それとも、報じられているように、蔑まれてきた立場からの復活をアピールするための誇張なのか?(プーチン大統領は黙認)または、ロシアが仕掛ける作戦の一環なのか?
1つ目と2つ目はセットだと思われますが、地域で在位最長の独裁者の異名を取るルカシェンコ大統領は、度重なる国内での政治の乱を乗り切るにあたりロシア軍(そしてワグネルなど)の力を借りてきたため、対ロシアに引け目を感じているというのは理解できますが、今回、表向きにロシアとプーチン大統領に貸しを作る形になったため、ベラルーシ国内向けに“強いリーダー”というイメージを再構築させるための策と見て取れます。そしてその背後には“プーチン大統領とロシア政府高官たちからの見返り”としてのヨイショも存在しています。
その上で戦術核兵器については、ベラルーシの防衛のための抑止力的に存在させることはしても、実際に使うことはないと見ています。
これは「もしウクライナが旧ソ連の核ミサイルを諦めていなければ、ロシアによる侵攻は起きなかったか」という問いにもつながりますが、ウクライナのケースについては、「そんなことはなく、ウクライナに存在していた核は耐用年数を超えており、もろもろの事故の可能性があることから廃棄されてよかった」という面と、「でもやはり存在したら、違ったのではないか」という面が混在しますが、ベラルーシの場合は、ロシアの最新鋭に近い戦術核兵器が配備されていますので、ロシアとの連結国家体という状態が継続する限りは、大きな侵略に対しての抑止力にはなります。
そしてそれは同時に“ロシアによるベラルーシ侵略”を防ぐことも意味しますが、もしかしたら政治的にロシアがベラルーシを併合していくプロセスが加速することも考えられます。
それには、もちろん、“ロシアが対ウクライナ(対NATO)戦争で負けなければ”というBig Ifがありますが。
では“ロシアが仕掛ける作戦の一環”だったとしたらどのような感じなのでしょうか?
日に日に発言力を増し、ロシア軍幹部に対する批判的な言動も増えてくる中で、緊張感高まる対立状況を創り出し、プリコジン氏とワグネルを使って危機的状況をあえて作りだして、戦争執行中のロシア軍内のいらぬ混乱を鎮め、士気と統率を再度高めるために、国内外を欺くという作戦だと表現できます。
「ロシア軍の高官が事前に察知していて、それであえて動かず、ワグネルに行動しやすくした」というように、スロビキン司令官をまず表向きに非難することで幕引きを図ろうとしていますが、恐らく今回の企みは事前にプーチン大統領とプリコジン氏が打ち合わせた上のドラマであり、本格化するウクライナによる反転攻勢に備えるため、ロシア軍とワグネルの再配置と対ウクライナ攻撃の戦略のアップグレードを行ったものと思われます。
ルカシェンコ大統領を使って、ワグネルとプリコジン氏を一旦、ベラルーシ入りさせ、そこで8,000人収容の宿営地を準備してもらってそこにワグネルの戦闘員を動かしたように見せて、ロシアとベラルーシの関係の変化・亀裂を演出しつつ、プリコジン氏には身を隠させていろいろな憶測をさせたうえで、じっくりと新しい戦略の立案と体制の再編成を行わせるという目くらませをするという戦略が考えられます。
実際のワグネルの戦闘員は5万人強と言われ、そのうち、ウクライナ南部に投入されていたのが2万5,000人、残りの2万5,000人の戦力が装備と共にベラルーシに移動したという分析が上がってきています。
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