真剣に心配するレベルにはないロシアの核兵器使用
それと並行して、ロシアによる周辺国の囲い込みは加速しようとしており、すでに連結国家体になっているベラルーシ、ロシアに侵攻されたのにロシア寄りになるジョージア、一定の距離を置きつつロシアを支持するカザフスタンとほかのスタン系の国々、そしてイラン、トルコ、中国、インドなどとの関係強化が進んでいます。
これらの国はFriend-Enemy(“frenemy”)とも呼ばれる国々ですが、ロシアの敗戦を防ぎ、戦争を長期化させている国々でもあります。
そしてワグネルつながりでは、マリを中心として、ロシアは着々と西アフリカ諸国との関係を強め、そこに南アが加わることで、アフリカもロシアに対するシンパシーを強める方向に傾いていますし、東アフリカ諸国は中国が地盤固めを進めていることもあって、気が付けばアフリカ大陸全体が国家資本主義陣営の緩いつながりに含められてきていることが見えてきます。
こうして国際舞台においてロシアシンパまたは表面上中立の立場を取り、対ロ(対中)制裁の輪には加わらない国々が増加傾向になってきました(そういえば、最近、メディアも国連における投票結果を報じなくなりましたが、どうしたのでしょうか?)。
戦況については、遅々として進まない反転攻勢が現実としてありますが、ウクライナ側の説明は「まだ2割ほどの戦力しか投入しておらず、ロシアの防衛戦の穴探しをしている。精鋭部隊が投入されるのは、その穴が見つかってからだ」というものもありますが、これまでメディアを通じて馬鹿にしてきたロシアの1940年代の戦車が大量にシベリアからウクライナ東南部の前線に運ばれ、それがロシアの防御線を担う大砲として配備され、2重3重にも守りが固められ、同時に空からの攻撃支援が本格化してきていることで、ウクライナ軍の出鼻を挫きだしたことも一つの理由と考えられます(軍事専門家の方たち曰く、「ウクライナ軍がロシアのこの旧式戦車による防衛戦を破るのはかなり困難だろう」とのこと)。
そうしているうちにロシアが執るウクライナの主要都市が同時に爆撃・ミサイル攻撃を受け、インフラ設備を破壊し、補給線を断つ戦略が効きだしてきています。「F16が投入されたら、きっと戦況が反転する」という希望的観測もありますが、パイロットと支援部隊の習熟度が低いまま投入されても、もしかしたらロシアの最新鋭戦闘機の餌食になるだけかもしれません。何しろ、ロシア空軍はまだSu57やSu75を本格的に実戦投入しておらず、その必要性もまだ感じていないということです。
つまり、出ては消える“ロシアによる核兵器使用の恐怖”は、まだ真剣に心配するレベルには達していないと思われ、NATO諸国での軍事支援の加速のための口実に使われているにすぎないと見ることが出来るでしょう。そして、今、話題のザポリージャ原発を爆破するかもしれないという懸念も、恐らく誇張されているものであると思われます(ただし、ロシア軍が周辺地域からいなくなり始めていることも確かですが、それはロシアが戦略的に仕掛ける心理戦ではないかと考えます)。
実際のところ、戦況は膠着状態に陥っており、あまり進捗していませんが、ロシア側もウクライナ側も停戦協議のテーブルに就くことが出来る最低限の条件を獲得できておらず、まさに袋小路に陥っているというのが、調停グループが行った分析と見解です。
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