高笑いのプーチン。自ら仕掛けた「プリゴジンの乱」でさらに強まった“神通力”

 

キーウを訪問したCIA長官の「とんでもない要請」

肝心のプリコジン氏は、一応ベラルーシにいると思われますが、誰もその姿を確認しておらず、ワグネルのベラルーシ入りの際に抜け出してロシア国内に“潜伏”していて、そこで同じく消息不明のスロビキン司令官と合流しているという見立てもあります(そして、鵜呑みにするのは危険だと思われますが、7月6日のルカシェンコ大統領のインタビューにおいて、プリコジン氏がもうベラルーシにいないと明かされました)。

そこでウクライナ攻撃のための新しい戦略を準備していると言われていますが、ワグネルの乱以降、再編成されているロシア軍の配置は、これまでワグネルがいたバフムト周辺とドニエプル川東岸近辺で補強されて防衛線を守ると同時に、ザポリージャ原発周辺、カホウカダム近辺からは“撤退”して、ロシア軍の防衛の壁を形成しているのが分かります。

その上で、NATOからのF16の供与をはじめとして、ウクライナサイドの防空体制が整う前に無人攻撃機(ドローン)、長射程の誘導ミサイル、Su57などからの長射程の攻撃などを織り交ぜ、ウクライナ東南部、西部(ポーランド国境近くのリビウ近辺)、首都キーウなどへの攻撃を行うことで、ウクライナの部隊間の連携を物理的に寸断しています。

それが奏功しているのかは分かりませんが、ウクライナによる反転攻勢は、ゼレンスキー大統領も認めるとおり、予定していたより遅れています。それはアメリカの統合参謀本部議長による議会への報告にもありますし、先日、極秘裏にキーウ訪問したバーンズCIA長官も認識しています。

しかし、NATO内では、対ウクライナ支援の継続は、“今のところ”変わらないとされていますが、ウクライナ側の反転攻勢が思うように進んでいない理由を、ゼレンスキー大統領の説明通りに受け取ることはなく、あくまでも状況をよりダイナミックに表現することでさらなる支援を引き付けようという魂胆があるとみているようです。

例えば、フランス国内の暴動は、ウクライナ問題と直接つながっていませんが、国民の不満の爆発により、マクロン政権によるウクライナへの傾倒も非難の的になってきていますし、英国では、ウクライナ戦争の長期化により、悪化の一途を辿るインフレとエネルギー価格の高騰、食糧への不安、そして公的社会福祉サービスの悪化などが顕在化してきています。

そして肝心のアメリカでは、この秋ぐらいから来秋の大統領選挙キャンペーンが本格化し始めることもあり、先述のバーンズCIA長官の訪問時に「米国の政治日程に鑑みて、この秋くらいに一旦、停戦交渉に入るようにしてほしい」という“とんでもない”要請をしたようです(こちらはウクライナ政府から聞かされました)。

このような状況を見て、ほくそ笑む人がいますが、それは誰でしょうか?

プーチン大統領は確実にその一人です。

プリコジンの乱によって彼の神通力が弱まり、ロシア政府内ですでにポスト・プーチン大統領の権力争いが始まっていると報じたメディアも数多くありましたが、実際にはそれどころか力は強まっており、統制力も上がっているという情報もあります。

戦争を長期化させ、仮に勝てなくても負けない戦争を続けることで、NATO諸国を支援疲れに陥らせるだけではなく、同時にNATO諸国の内政問題を燃焼させて混乱に陥らせるという“狙い”の一つが現実化する方向に進みつつあります。

もしこのまま長期化し、NATO諸国がじわりじわりと支援の輪から脱落していったとしたら、ロシアやベラルーシと国境を接するバルト三国やポーランドなどのNATO加盟国は「次は私たちで、きっとNATOに見捨てられる」と感じるようになるかもしれません。

すでにその“不安”は顕在化し始めており、ついにはポーランドのドゥダ大統領は「NATOはポーランドに核兵器を配備しなくてはならない」とまで公言するようになっており、NATOの覚悟を試すような姿勢が出てきています。

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