未来図が描けない米国の悩み
こうして、昨年11月以来、対中国政策は、バイデン自身の主導で対立一本槍から対話を重視する方向へとシフトしつつあるのだが、彼の頭脳が巧く整理されていないので、時折「悪い連中」とか「独裁者」とかの使い慣れた悪罵が口をついて出てしまい、そのシフトを掻き乱すのだろう。
しかし、問題はそこだけに留まらない。「対話重視」は一般原則ではないので、対ロシアについてはあくまでプーチン政権打倒、ロシア国家の崩壊を求める超強硬路線が続いていて、外交姿勢全体の整合がとれていない。だから、デ・リスキングへのシフトは、対中国関係の硬直化の打破には資するかもしれないが、ウクライナ戦争を終わらせることには何の役にも立たず、むしろ米国を世界から孤立させてしまうだろう。
その背景には、米国自体が21世紀、覇権国であることを止めた後に一体どのような国として生きていくのかの将来像を描く力がなく、その苛々状態の中で、20世紀の遺物でしかない軍産複合体の戦争挑発策動が強まったり、それに反発するITはじめ最先端分野のグローバル協調志向が巻き返しに出たりして、政権も議会も社会も大きく揺れ動きながら張り裂けてしまうような状態が続くのだろう。
そうした米国の分裂ぶりとバイデンの統合能力の欠如を冷静に見極めないで、そのどこか一部を「米国そのもの」だと思い込んでしまうと、例えば、もはや米国が「台湾有事切迫論」から引き始めている時に麻生太郎自民党副総裁が台湾に出かけて行って「戦う覚悟」を宣言するという頓珍漢が起きる。マクロンが言うように「自分たち自身で考える」ことなしに自国の安全と平和を確保することなどできるはずがないのである。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2023年8月14日号より一部抜粋・文中敬称略)
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