「対話」基調に舵を切ったはずなのに
バイデン政権は、トランプ前政権から多くのものを引き継いでいるが、中でも顕著だったのは、トランプ政権の後半から急に激しくなった対中経済制裁の路線である。しかも単に引き継いだだけでなく、予算欲しさの軍人の虚言を利用して「台湾危機切迫論」を鼓吹し、さらにはウクライナ戦争と絡めてロシア、中国、北朝鮮など元・現の“共産圏”諸国やイランなどの宗教的独裁国などの「専制主義体制」と米国を盟主としNATO諸国や日韓などを従える「民主主義体制」とが全世界的に対決するという時代錯誤の図式まで描き上げてそれを世界に押し付けようとしてきた。
この路線に変化が出てきたきっかけは、昨年11月14日にバリ島でのG20首脳会議に先立って開かれた米中首脳会談だった。この会談後、バイデンは記者団の前で「中国側には、台湾に侵攻しようといういかなる差し迫った企図もないと、私は思う」と明言した。これを報じた日本のメディアは、本誌の知る限りでは英文Nikkei Asiaだけで、同誌22年11月16日付への米ランド研究所の上級防衛分析官デレク・グロスマンの寄稿だった(本誌22年11月28日号=No.1183参照)。
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この米中首脳会談を起点として、米国の少なくともホワイトハウスと国務省は台湾有事を煽るような言動を抑えるようになり、それに伴ってブリンケン訪中の準備も始まったのだった。それが今年2月から6月に延びたことは上述の通りだが、それでも「米国発の無責任な『台湾有事』狂想曲はひとまず鎮静化に向かうだろう」(No.1183)という流れは変わらなかった。
実際、バイデンは今年5月21日、G7広島サミット閉幕後の記者会見で、中国との対話による「雪解け」は近いとの認識を示し、米国は中国とのデカップリング(分断)を目指しているわけではなく、対中関係におけるデ・リスキング(リスクを低減させつつ関係を維持していくこと)を望んでいると述べた。
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