見極めなければ日本は破滅。米国の分裂とバイデン「統合能力」の欠如

 

崩れてきた「専制vs民主」図式

そうなると、「専制vs民主」という虚妄の図式も崩れ始めて当然である。22年12月にブリュッセルで開かれた「インド・太平洋フォーラム」で基調演説に立ったEUの外交・安保政策上級代表ジョセップ・ボレル(元スペイン外相)は「インド・太平洋諸国とヨーロッパ諸国の大半は〔米中のどちらかを選べという〕不可能な選択に直面することを望んでいない」と述べた。

23年4月に訪中して帰国したばかりのフランスのマクロン大統領が「最悪なのは、台湾の問題について、アメリカの歩調や中国の過剰な反応に合わせてヨーロッパの国々が追随しなければいけないと考えることだ。欧州は自分たちとは関係のない世界の混乱や危機に巻き込まれるべきではない」と言ったのも同じ意味で、この発言が批判されると、彼はさらに重ねて「米国の同盟国であることは下僕になることではない。自分たち自身で考える権利がないということにはならない」と、日本とは真逆の自主独立思考を表明した。

そのような考え方こそむしろ世界の大勢である。欧州外交問題評議会理事のマーク・レナード(元ブレア英首相の外交政策顧問)が「フォリン・アフェアズ・レポート(FAR)」8月号で指摘しているように「欧米は、国連でのウクライナ戦争〔についての対ロシア〕非難決議が141カ国に支持されたことを誇りにしているが、国際関係の専門家で評論家でもある精華大学の楚樹龍は、実際に対ロ制裁に参加している国の数の方が欧米のパワーを示すよい尺度だと主張する。この計算では、欧米ブロック側として制裁に参加しているのは33カ国だけで、167カ国はロシアを孤立させる経済制裁への参加を拒否している」。

そのため、マクロン発言以降、米国の高官からも「米中、あるいは欧米と中国のどちらかを選ぶように各国に求めることはない」(ガービー連絡広報調整官)、「我々は米中のどちらかを選べとは言っていない」(ブリンケン)、「世界の人々や国々に我が国か他の国のどちらかを選ぶように求めることはない」(オースチン国防長官)など、皆同じような表現で軌道修正を図る発言が続いていて、上述5月のバイデンによる「デカップリングからデ・リスキングへ」の転換宣言もその一環なのである。

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