あまりにも多い「反プーチン派」の死。ナワリヌイ氏は“消された”のか?

 

プリゴジン氏は「何者かによる撃墜」により死亡

ノビチョクと聞いて思い出すのは、2018年3月4日、英国南部のソールズベリーで発生した毒殺事件です。この日、街のショッピングセンターのベンチで、ロシアの元スパイのセルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリア氏が倒れていました。駆け付けた警察官によって救急搬送されましたが、ユリア氏は一命をとりとめたものの、スクリパリ氏は3カ月後に死亡しました。

この事件では、2人のロシア人が実行犯として逮捕されましたが、この時に使われたのがノビチョクでした。犯人はスクリパリ氏のアパートのドアノブに微量のノビチョクを付着させたのです。このドアノブを握ったことで、スクリパリ氏親子は数分後に意識不明に陥ったのですが、何よりも恐ろしいのが、真っ先に駆け付けてスクリパリ氏を助けようとした警察官までもが、意識不明となってしまったのです。

戦争では使用されることのなかったノビチョクですが、無色透明で無味無臭の上、わずかな量が皮膚に触れただけで死に至らしめることのできる猛毒ですから、口封じのための暗殺を日常的に繰り返している独裁者にとっては、「渡りに舟」のような化学兵器なのでしょう。

話は戻りますが、今回のナワリヌイ氏の訃報を聞き、すぐに思い出したのが、半年ほど前の2023年8月23日、ロシアの民間軍事会社ワグネルの指導者、エフゲニー・プリゴジン氏が搭乗していた小型ジェット機の爆破事件です。この日の夜、モスクワ空港を飛び立ったワグネル所有の小型ジェット機2機のうち、プリゴジン氏と幹部の乗った機体だけが空中で爆破し、墜落し、搭乗者10名が全員死亡したのです。

この2カ月前、プリゴジン氏はプーチン大統領に反旗を翻し、武装反乱を起こしてモスクワへの進軍を決行しました。プリゴジン氏がモスクワの手前で進軍を止めたため、プーチン大統領との水面下のすり合わせができたのだと見る報道もありました。しかし、この時、プーチン大統領はテレビ演説で、国民に対して「我々は今、国家への裏切り行為と直面している」と怒りをあらわにして述べていたのです。

そして、2カ月後の爆破事件です。当初は「機内に爆発物が仕掛けられた可能性」も報じられましたが、後に「何者かによる撃墜」と変更されました。モスクワ上空に他国籍の戦闘機が侵入することなど不可能ですから、「撃墜」であればロシア軍の戦闘機ということになります。そして、こんなことで軍を動かせる人物と言えば…ということです。

熱心なロシア・ウォッチャーでなくとも、ここまで書いて来た事件はどれも記憶に残っていると思います。さらに振り返ってみると、第2次チェチェン紛争におけるロシア政府による人権侵害や、プーチン大統領への批判を続けていたロシア人の女性ジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤ氏が、2006年10月7日、自宅のエレベーター内で何者かによって射殺されました。48歳の若さでした。

ロシア連邦保安庁の元職員で、ポリトコフスカヤ氏と同じくチェチェンへのロシア政府の蛮行とプーチン大統領を批判し、ロシア政府の悪行の数々を暴露したため、プーチン大統領の「暗殺リスト」に加えられてしまったアレクサンドル・リトビネンコ氏は、亡命先のロンドンで飲食物に放射性物質ポロニウム210を仕込まれ、2006年11月23日、44歳の若さで死亡しました。

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