進むも地獄、引くも地獄。有利な状況でウクライナ戦争「停戦」が困難な状況に立たされた西側

2024.03.28
 

プーチンをウクライナ戦争に引き込んだ中国

一方、中国も水面下で「親中派のポスト・プーチン」の擁立を画策していたと考えるべきだ。思い返せば、開戦のきっかけとなった「ウクライナ東部独立承認」をロシア議会に提案したのは、ロシアにおける野党「ロシア共産党」だった。この党は、中国共産党の強い影響下にあると指摘されている。やや疑り深い見方をすれば、中国共産党がプーチン大統領を「進むも地獄、引くも地獄」の戦争に引き込んだと考えることもできるのだ。

しかし、前述の通り、プーチン大統領は、大統領選で圧勝した。筆者の推測だが、「ポスト・プーチン」を巡る米英VS中国の水面下の駆け引きが、民主化勢力、共産主義勢力双方の「ポスト・プーチン」の台頭を阻み、結果的にプーチンの延命を利することになっているのではないか。

NATO軍の投入で一挙にロシア軍を追い出すという選択肢

プーチン政権の内部崩壊という形が難しければ、武力による停戦も選択肢とならざるを得ない。最もわかりやすい形が、ロシアが「力による一方的な現状変更」で侵略したウクライナ領を完全に取り返すことで停戦を実現することだ。

2年間膠着した戦況を打開して領土奪還するのは不可能ではないかと言われそうだが、方法はある。NATO軍の全面的なウクライナへの投入で、一挙にロシア軍を追い出すことである。実際、エマニュエル・マクロン仏大統領はパリで開催されたウクライナ支援の国際会合で、NATO諸国の地上部隊をウクライナに派遣する可能性を排除しない考えを表明している。

英シンクタンク「国際戦略研究所(IISS)」が毎年発行する『ミリタリーバランス(2023年版)』を参考に、2022年時点のNATO加盟国の軍隊を単純に合計した戦力とロシア軍を比較する。総兵力は326万人対119万人、戦車は1万1,100台対2,050台、戦闘機/攻撃機は5,600機対1,100機など、NATO軍が数倍上回っている。

NATOの戦力は米軍頼みである上に、米軍は「欧州、インド太平洋、中東」の3正面を主戦場と想定していて、すべての戦力を欧州に投入できるわけではない。それでも、NATO軍がロシア軍を戦力的には圧倒している。それを大規模に投入すれば、長引く戦争で消耗したロシア軍を一挙に追い出すことが可能かもしれない。

しかし、マクロン大統領の発言に関して、米国、英国、ドイツ、イタリア、スペイン、ポーランド、チェコが、ウクライナ派兵をしないという姿勢を示した。フランス政府高官までもが、大統領の派遣構想地雷除去や国境警備、ウクライナ軍の訓練といった非戦闘部隊だと補足説明した。

プーチン大統領は、「NATOがウクライナに軍隊を派遣すれば、核戦争のリスクがある」と警告した。NATOとロシアが全面対決する核戦争に発展するリスクを避けるために、NATO加盟国は、マクロン大統領の発言を打ち消そうとしている。現時点では、NATOの全面的な参戦というオプションは、現実的ではない。

それでは、NATO軍の全面的な参戦は難しくとも、NATOからウクライナへより大量の武器供与と、小規模だが精鋭部隊の参戦により、ロシア軍に大打撃を与える。ウクライナ領土の完全な回復はなくとも、ロシアにNATOと全面的に戦うことへの恐怖を植え付けて、停戦に持ち込むという戦略があるかもしれない。

これは、第二次世界大戦末期に、敗色濃厚な日本が、米国に大打撃を与える作戦を決行し、国体の護持など有利な条件を認めさせたうえで講和を結ぼうとした「一撃講和論」のようなものかもしれない。しかし、これまで武器供与など支援を続けてきたが、膠着状態が続いてきたわけだ。その状況を変えて停戦に持ち込むほどの一撃を与える支援をせねばならない。

print
いま読まれてます

  • 進むも地獄、引くも地獄。有利な状況でウクライナ戦争「停戦」が困難な状況に立たされた西側
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け