進むも地獄、引くも地獄。有利な状況でウクライナ戦争「停戦」が困難な状況に立たされた西側

2024.03.28
Bucha,,Kyiv,Region,,Ukraine,-,May,1,,2022:,Russia's,War
 

開戦から2年以上が経過するも、依然膠着状態が続くウクライナ戦争。しかし政治学者で立命館大学政策科学部教授の上久保誠人さんは、広い意味で「NATOは既にロシアに勝利している」として、そう判断できる根拠を解説。その上で、たとえウクライナ戦争の「停戦」が実現したとしても、プーチンに「勝利宣言」をさせてはいけない理由について詳述しています。

※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:ロシアとウクライナ、本当に“負けた”のはどちらか?

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)
立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

ロシアとウクライナ、本当に“負けた”のはどちらか?

スウェーデンが、北大西洋条約機構(NATO)に正式に加盟した。22年のロシアによるウクライナ侵攻開始を受け長年の中立政策を転換し、昨年加盟したフィンランドに次いで、32カ国目のNATOメンバー国となった。

両国のNATO加盟によって、NATO加盟国とロシアの間の国境が、従来の約1,200キロメートルから約2,500キロメートルまで2倍以上に延長された。ロシアの領域警備の軍事的な負担は相当に重くなった。

海上でも、ロシア海軍の展開において極めて重要な「不凍港」があるバルト海に接する国が、ほぼすべてNATO加盟国になった。NATOの海軍がバルト海に展開すれば、ロシア海軍は活動の自由を厳しく制限されてしまうことになる。

この連載では、ウクライナ紛争が開戦する前の段階で、既にロシアは不利な状況にあったことを指摘していた。東西冷戦終結後、約30年間にわたってNATOの勢力は東方に拡大してきた。その反面、ロシアの勢力圏は東ベルリンからウクライナ・ベラルーシのラインまで大きく後退した。

ウクライナ紛争開戦後も、NATOはさらに勢力を伸ばし、ロシアの後退は続いている。すでに敗北していると言っても過言ではない。ロシアがウクライナの領土を一部占領したとしても。「NATOの東方拡大」「ロシアの勢力縮小」という大きな構図は変わらないようにみえる。

一方、大きな構図とは別に、ウクライナでの戦闘自体は、膠着状態が続いている。ロシア大統領選が行われ、ウラジーミル・プーチン大統領が約87%という過去最高の得票率で圧勝した。大統領はモスクワで演説し、大統領選の「勝利宣言」を行った。10年に及ぶウクライナ南部クリミアの支配を誇示し、ウクライナでの「特別軍事作戦」をさらに進める姿勢を強調し、軍を強化すると表明した。

昨年始まったウクライナの反転攻勢は成果に乏しい。ウクライナの正規軍は壊滅状態にある。NATO諸国などから志願して集まってきた「義勇兵」や「個人契約の兵隊」によって人員不足を賄っている状態だ。

NATOはさまざまな兵器・弾薬類をウクライナに送り、支援を続けてきた。しかし、その支援で戦局を抜本的に変えるのは難しいだろう。ロシアに大打撃を与え、ウクライナが失った領土を回復させ、戦争を終わらせるほどの支援ではないからだ。むしろ、武器供与を中途半端に小出しにするのでは、戦争が延々と続いてしまうだけである。実際、今年2月には東部ドネツク州の激戦地アウディイウカがロシアに制圧されてしまった。

要するに、外国の武器を使って、外国の兵士が戦い、苦戦が続いているのがウクライナ陣営の現実だ。このままでは、ロシアによるウクライナ領の占領という「力による一方的な現状変更」が既成事実化されて、ウクライナが領土を回復できないまま、停戦に追い込まれる懸念が高まってしまう。

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