進むも地獄、引くも地獄。有利な状況でウクライナ戦争「停戦」が困難な状況に立たされた西側

2024.03.28
 

世界を無秩序に陥らせるプーチン大統領の「勝利宣言」

経済をみてみよう。国際通貨基金(IMF)によれば、世界の名目GDPに占めるG7のシェアは、ピークの86年に68%から2022年に43%まで下がった。そして、44%の新興・途上国に初めて追い越された。

ハンガリーなど東欧、インド、パキスタンなど南アジア、ブラジルなど米州など、民主的な政治制度を整えながら、強いリーダーによる権威主義的な制度の運用が行われている国が増えている。

新興・途上国は「グローバルサウス」と呼ばれている。元々「サウス」とは、国際社会における格差など「南北問題」の「南」のことである。しかし、近年は実際に領土が南半球に位置しているかにかかわらず、政治的・経済的に国際社会での影響力を急速に増している新興国全般を意味する言葉となっている。

ナレンドラ・モディ・インド首相は「グローバルサウスの声を増幅させる」と訴えている。インドは23年1月にオンラインで「グローバルサウスの声サミット」を開催し、125カ国の代表者が参加した。

ウクライナ戦争でも、インド、トルコなどグローバルサウスがロシアの石油・天然ガスなどを輸入し、欧米のロシアへの経済制裁の効果が減じられている。また、国連決議などの場面でもグローバルサウスの動向は無視できないものとなっている。

この状況下でウクライナ戦争を停戦し、プーチン大統領が「勝利宣言」をしたとする。権威主義的な指導者が次々と大統領の宣言に支持を表明する。本当の勝者であるはずのNATOの中からさえも、トルコやハンガリーなどプーチン氏の宣言を支持する国があるかもしれない。

NATOや日本など自由民主主義陣営は「大きな構図」では「勝者」であるにもかかわらず、ウクライナ戦争の「敗者」とみなされてしまう。そして、自由民主主義のあり方に対する世界中からの批判が高まる。自由、平等、基本的人権の尊重という自由民主主義の価値を否定する主張が世界中に広がっていく。

強い指導者による強権的な手法の優位性の主張、自由貿易のルールを無視した保護主義の横行、隣国との揉め事を「力による一方的な現状変更」で解決することの正当化が世界中で起こっていく。中国が台湾に攻め込んだり、ベネズエラがガイアナに侵攻したり、北朝鮮が韓国への軍事的挑発を強めたりすれば、世界は無秩序に陥る。自由民主主義陣営は、それを制御できなくなるだろう。

NATOは、この最悪事態を避けたいはずだ。ウクライナの領土を一部切り取ったからといってロシアの勝利ではないこと、戦争を通じてロシアの勢力圏が後退し、国際政治経済における衰退が起こったという現実を、国際社会全体に強く認識させるために、どういう形で停戦するべきかが、NATOが抱えた本当の課題なのだということだ。

米英得意の工作活動でプーチン政権を内部崩壊へ

NATOにとってどのような停戦の形が望ましいのかを、考察してみたい。まず、プーチン政権を内部崩壊させるような工作活動だ。独裁政権を転覆させて、民主化することは、米国、英国の諜報機関の得意分野である。

ウクライナ戦争開戦後も、ロシアを民主化するべく、ロシア人の民主主義者から「ポスト・プーチン」を担ぎ出そうと裏工作を続けてきたはずだ。だが、プーチン大統領は長期政権の間に、反体制派や民主化勢力を徹底的に弾圧してきた。民主化勢力を作り出すのは困難な状況ではないだろうか。

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