同氏を偲んで、今年1月に佐高信氏が共著で『中村哲という希望 日本国憲法を実行した男』という本を出しています。その中で、中村氏と交流のあった佐高氏は、同氏を「歩く日本国憲法」と述懐していますが、最後にその本の一節を引用して終わりにしたいと思います。
(前略)岸田軍拡に賛成の人は中村哲を否定する人である。「軍拡で暮らしは守れない」ことを中村は実践で示した。軍拡に賛成しない人、つまりは平和憲法を守れと叫ぶ人は頭がお花畑だとタカ派ならぬバカ派は叫ぶが、アフガニスタンの地で中村は平和をつくりだしたではないか。そして、世界の人は中村に拍手を送っているではないか。その、いわば日本の宝をなぜもっと大切にしないのか。
中村は憲法が日本にとって一番大事だと言う。「あれだけの犠牲を払った上でつくられたものだから、一つの成果じゃないかと思います。それを守らずして、国を守るもないですよね。だから、それこそ憲法というのは国の掟、法の親玉みたいなものなんじゃないですかね。憲法をあやふやにして国家をどうのこうのというのはおかしい。(中略)あれは世界中の人が憧れている理想であってね、守る努力はしなくちゃいけないんだ」
(前略)澤地との共著で中村は嘆いている。「2001年に衆議院で話して、ほんとうにこの人たちは、日本の行く末をあずけられる政治家だろうかと、目を疑いましたね。戦争といっても、これは殺人行為ですよ。対米協調だとか、国際社会の協力だとか、そんなきれいな、オブラートに包んだような言葉を使っても、協力するということは、殺人幇助罪です。そのことが、ちっとも考えられていない」
中村氏に限らず、以前にも紹介した立石泰則氏の著書『戦争体験と経営者』を読んでも、戦地を経験して復員した戦後の経済人には筋金入りの平和主義者が多くいたことがわかります。私が世話になったソニーを創業した井深大氏も徹底した平和主義者でした。
また、これも何度か言及しましたが、一兵卒として戦争の恐ろしさと理不尽さを戦場で経験し、米国の圧力に抵抗してロッキード事件を仕掛けられ失脚した田中角栄元首相は、「戦争を知っている奴が世の中の中心である限り日本は安全だ。しかし戦争を知らない奴が出てきて日本の中核になったときは怖い」と予言し、「将来、憲法改定があったとしても9条だけには触ってはならない」とも断言していたと言います。
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いつの間にか、この国は、中村哲氏が「世界の理想」と語った平和憲法をないがしろにして軍拡路線をひた走るようになってしまいました。佐高氏も嘆くように、現行憲法遵守や平和主義を叫ぶと、「お花畑」などと揶揄されたり攻撃される嫌なムードが広がっています。
憲法記念日に際して、護憲派も改憲派も、今一度戦後日本国憲法が果たしてきた役割について、じっくりと振り返ってみるのも悪くないと思いますが、いかがでしょうか。
※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』2024年5月3日号の一部抜粋です。このつづきに興味をお持ちの方はぜひご登録ください
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