対人地雷の使用でウクライナが陥ることになる自己矛盾
またこのアメリカから供与される対人地雷をウクライナが使用した場合(恐らくする)、オタワ条約の締約国であるウクライナは明らかなオタワ条約違反となり、ロシアによる侵略に対して“国際法違反”と非難していた立場から考えると、自己矛盾に陥ることになると考えられます。法による支配を守るという建前も、ウクライナによる抗戦の理由にあげられていたように思いますが、これについてはどのように説明をするのでしょうか?
また一旦対人地雷の敷設が行われた場合、ウクライナ軍としては、すでに有する旧ソ連軍の対人地雷を導入することへの心理的な抵抗が取り払われ、かなりの規模でロシア・ウクライナ国境付近に対人地雷が埋設されることになると懸念します。
皆さんもご存じのように、対人地雷は埋設されてしまうと、その位置を特定することはほぼ不可能と言われており、それゆえにカンボジアやボスニアでの地雷撤去作業が非常に難航しているのですが、いつか戦争が終わってロシアに奪われた土地がウクライナに戻ってきたときに、自らが埋めた対人地雷によって、守るべき国民をまた生命の危険に曝すことになります。
「生命がかかっているのだから、なりふり構わず攻めるのだ」とウクライナ政府も、周りのウクライナサポーターたちも主張するでしょうが、ウクライナ東部の集落に地雷を敷設して離れたロシア軍に対してあれほど激しく非難したにも関わらず、今度はそれを自分が行うことになれば、将来、どのような説明を国際社会に対して行うのでしょうか?
「仕方なかった」とでも言って、正当化するのでしょうか?
Post-Ukraineのかたちがどのようなものであったとしても、ロシアもウクライナも、そしてアメリカ政府も、この問いにきちんと答える義務があると考えます。
兵器供与先への核兵器使用の可能性を再度強調したプーチン
さて、アメリカが留め金を外す決定(長距離砲の使用許可と対人地雷の供与の決定)を行ったことに対し、ロシア側も決して黙ったままではいません。
ロシア領内がNATO諸国供与の兵器(ATACMSやシャドーストーム)によって攻撃されている事態を受けて、19日にはプーチン大統領は核兵器使用のためのドクトリンの使用要件の改定に署名し、「ウクライナのみならず、ウクライナに武器弾薬を供与し、それがロシアへの攻撃に用いられた際には、その供与元も敵とみなし、核兵器を含む報復攻撃の対象とする」という内容を明示し、核兵器使用の可能性を再度強調しました。
私個人としてはプーチン大統領が実際に核兵器を用いるとは考えていませんが、懸念があるとすれば、プーチン大統領の側近や政権、ロシア議会内で強硬派が主導権を握っている状況下で、非常に積極的に核兵器の使用を進めている勢力に押されて、使わざるを得ない状況に、プーチン大統領が追い込まれる可能性は否定できないと考えます。
核兵器の使用を推す強硬派の主張の源には「ロシア(ソビエト連邦)は長い月日と多くのリソースを費やして、ロシアの国家安全保障のために核兵器を開発・製造し、近代化を進めてきた。核兵器を保有し、世界最大の保有国となることで軍事的な抑止力にはなってきたが、国家安全保障のためには、必要に応じて使うことが出来ることを示す必要がある」という主張があり、2022年2月以降、強硬派はウクライナ特別作戦が停滞するにつれ、「今こそロシアの真の力と覚悟を示す時だ」という主張をして、プーチン大統領に核兵器の使用を進言してきています。
今回、NATOの主軸であるアメリカと英国が挙ってウクライナに長距離砲を用いてロシア領内を攻撃することを容認したことで、強硬派の発言力が政府内で高まるのではないかと懸念されています(強硬派の意見としては「核兵器を使用しないから、なめられているのだ」とのこと)。
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