フィンランドと日本の教育の大きすぎる違い
とはいえ、後者の場合、つまり日本人の成人力そのものは優れていても他の要因で阻害されているというのも嘘臭くて、成人力が優れているならその阻害要因も目敏く見つけて除去していくはずなのだからそんな言い訳は成り立たない。
とすると、どうも前者が妥当であって、この調査のやり方では「読解力」「数的思考力」「問題解決能力」とは言うけれどもそれらを数値化できる限り、つまり《量》を扱おうとしているだけで、思考能力の《質》を無視しているのではないか、という疑いが生じる。
統計調査の方法は専門的な知識が必要な領域で、OECDのこの調査の場合ももちろん国際的に著名な方々の知恵を集めて行われているのだとは思うが、サンプルとして公開されている調査の際の質問は、例えば「問題解決能力」の場合は、地図上に自宅と学校と3つの店が示されていて、「今は朝8時。子供を8時半までに学校に送り届けた後、店で1週間分の食料品の買い物を20分間で済ませ、9時半までに帰宅するにはどのルートを取るのがいいか」が問われる。
まあ確かに、頭を働かせて上手に立ち回らなければならないケースであるとは思うけれども、健常な精神の持ち主であれば地図を一目見ただけで答えが分かってしまう程度の設問で、余りにシンプルすぎるのではあるまいか。
私が本誌でも繰り返し述べてきたことではあるが、知的な(intellectual)能力を鍛えようという場合に、まず第1に必要なのは、知識(information)と知恵(intelligence)の区別と、しかる後の両者の統一である。
これをそもそもから説き起こしていると本一冊分になってしまうので、今は避けるが、OECD調査は、知識の多さを問うのでなく、その先の読み込む力、数理的に整理して理解する力、それらの結果としての問題解決の方策を思いつく力を試そうとしているその気持ちは分かるのだが、それらの力は一言でいえば「知恵」で、こればっかりは残念ながら計量化できない「質」の問題なのですね。
そのことを分かっているのが実はフィンランド社会で、そのことは岩竹美加子『フィンランドの高校生が、学んでいる人生を変える教養』(青春新書、24年10月刊)を読めばよく理解できる。
フィンランドでは学校は「自分の頭で考える」ことを教える。それに対し日本では学校は「自分の頭で考えない(で言われたことを丸暗記する)」ことを教えている。その差が、上記表-2の1位と47位の差になるのではないか。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年12月16日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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