米国の“無敵の人々”が起こした株暴落とトランプショックの裏。相互関税に2つの支持グループ、その主張・心理・怨念とは?

 

「シリコンバレーで稼いでいる連中はズルい」

まず現役世代ですが、仮にサービス業に従事していて、満足の行くような収入には達しておらず、現状に不満を抱いているとします。そうした人々は、仮に株式市場がクラッシュして、景気が著しく悪くなり、人々の消費が冷え込んだら、最もダメージを受ける人々です。

ですから、本来でしたらグローバル経済を壊したら、最も痛手を受ける脆弱な立場のはずです。ですが、今はまだ、そのような痛みは来ていません。経済が壊れたら一番困るのは自分たちだという切羽詰まった危機感はないのです。その代わりに、知的付加価値を作る仕事で何十万ドルも稼いでいる人間はズルいとか、移民でやってきてシリコンバレーで稼いでいるヤツは憎い、という感情が先行しています。

その奥には、「自分は不幸だし、自分の名誉は徹底的に傷つけられている」という怨念のようなものがあります。

だからこそ、金持ちリベラルや成功した移民が右往左往して没落するという「トランプ劇場」が見たいのです。先のことは考えず、とにかく目先の感情論に身を任せている、これはこれで一種の無敵状態と言えます。

「世間が株安・不況でも、自分は死ぬまで困らない」

もう1つのグループ、引退世代の場合は、こちらは本当の無敵状態です。例えば、40年間工場で働いて、企業と折半で401Kという積立型年金をやってきたとします。そうすると、上手く運用していると1ミリオン(百万)ドルぐらいにはなります。多くの引退世代は、この1ミリオンを「終身保障の月払い年金」契約に投入しています。そうすると、恐らく月額で5000ドル(75万円)ぐらいになると思います。

この401Kですが、積み立てている間は基本的に株式投信などで運用します。個々人がファイナンシャル・アドバイザーなどと相談しながらファンドを選択して投資します。ですから、株安が起きると「自分の老後が心配」だとしてパニックになったりします。ですが、本当に老後という時期が来て積み立てた401Kを「払い出す」場合は違います。

終身保障、つまり死ぬまで毎月の年金が払われる「アニュイティ(生保の一種)」にした場合は、月額がロックされます。つまり月額5000ドルという契約にサインしたら、株価が上がろうが下がろうが保障されるのです。

さらにこれに社会保障年金(公的年金)が上乗せされます。67歳以降は月額で、恐らく40年勤めた人なら平均年収にもよりますが、月額で2500ドル(37万円ぐらい)は堅いと思います。これも国が保障しますから、株価や景気には影響されません。それどころか、物価が上がると支給額も上がります

ということは、平均的な引退世代の場合の年金はほぼ100万円/月あって、その金額は保障されているのです。共稼ぎの場合はその倍になります。その他に、余裕資金を投資していたり、持ち家の場合は今は相場が高いので売れば大きなキャッシュになります。という中で、引退世代の多くは「自分が勤めていた製造業が消えて名誉も失った」などとブツブツ言っているだけで、実は無敵なのです。

トランプ氏はここ数日「不況というのは、事態改善のために飲む苦い薬のようなもの」だなどと言っています。そうなのですが、実際に大統領の支持者の中核にいる人々は「無敵」であり、株安や不景気を本気で恐れてはいないのです。これは困った問題です。

彼ら、特に引退世代の場合は「毎月の収入」はロックされ(つまり保障され)ていますが、反面、収入は固定されているので、インフレはとてもイヤということになります。ですが、前述のように収入が制度的に保障されている中では、最終的に不況になって物価が下がれば「それでいい」という発想も持っているはずです。政権が強気に出られるのは、こうした構図があるからです。

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