トランプ関税の本質は「無敵の人々」による「カネよりも名誉」
そんな中で、野党の民主党には関税反対、不況阻止のために頑張ってもらいたいところです。ですが、政局をリードするような動きは全く見当たりません。それどころか、内紛を抱えて迷走中です。例えば、大統領選敗北の犯人探しも収まっていません。ここへ来て「バイデン氏の衰えを隠していた嘘つきは誰か?」とか、「何故オバマ氏のハリス支持宣言が遅れたのか?」などと、昔の話を蒸し返して内紛をエスカレートさせているのですから話になりません。
内紛ということでは、とりわけ、ニューヨークにおける混乱が目立っています。
まず、今年の11月には任期満了に伴うニューヨーク市長選挙が行われますが、民主党を裏切ってトランプ支持に転じた現職のエリック・アダムス市長(無所属出馬?)と、元知事のアンドリュー・クオモ氏が対立しています。その他にも、左派系の候補が乱立しています。
国政レベルでは、26年の中間選挙で改選を迎えるチャック・シューマー民主党上院院内総務(ニューヨーク州選出)を、予備選段階で引きずり下ろす動きが顕著になっています。市内クイーンズ区選出のAOCことアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員を上院に擁立しようという待望論ですが、この内紛も前向きなものとは言えません。
どうして民主党に元気がないのかというと、実は具体的な理由があります。現在のトランプ政治が、「グローバル経済で稼いだカネを国内で再分配する」というクリントン=オバマ路線への「全面拒否」を突きつけているからです。その上で、グローバル経済に適応したアメリカ経済に対して「破壊的異議申し立て」をしているのがトランプ政治というわけです。
ですから、これに反対し、景気悪化の気配があったら一気に攻勢に出る、そういった動きが民主党には期待されています。そうなのですが、実はこの問題では民主党は共和党以上に深刻な「分裂」を抱えているのです。
まず、党内穏健派にはクリントン=オバマ路線を修正する動きは見えません。では、トランプ関税を徹底批判するのかというと、声は非常に小さいのです。恐らくは、自分たちがグローバリストとして批判されるのがイヤなのでしょう。一方で、左派に関しては、米国経済を壊しかねないトランプ政治と比較すると、GXによる全体の成長プラス強めの再分配という路線は説得力を持つはずです。
ですが、その左派については、人権や環境、あるいは政府のリストラ反対に関する、一本調子のトランプ批判ばかりで上滑りを重ねているとしか言いようがありません。どうして人権や環境なのかというと、あるいは政府職員のリストラ反対なのかというと、とにかく、グローバル経済への賛成反対については、党内が割れているからです。
左派は、トランプ派と似たようなグローバリズム反対の立場ですが、穏健派のクリントン=オバマ=バイデン路線はグローバリズム推進だからです。そんなわけで、野党民主党には一体感もエネルギーも感じられません。こんな状況では、関税大不況を回避するためには、共和党の穏健派に頑張ってもらうしかないのかもしれません。
例えばですが、共和党のテキサス州選出のテッド・クルーズ上院議員は、現在の株安を見て「このまま大不況になれば、(26年の)中間選挙は血の海になる」として、政権に対する警告をしています。クルーズ議員の場合は、昨年24年に再選されており、上院の場合は任期6年ですから、怖いものはないわけです。
それはともかく、今回のトランプ関税については、コア支持者の動機が「カネではなく名誉」であり、そして彼らは事実上「無敵」だという厄介な事情があります。現地月曜日(7日)のNY市場は乱高下の末に「やや下げ」で何とか終わりました。ですが、明日の相場はどうなるか、誰にも分かりません。
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※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2025年4月8日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。「AIが東大理科3類『合格』というニュースはバグだらけ」「民が貧し国が太る『あり得ない』などと偉そうに語っていいのか?もすぐ読めます
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