「消費税はカネ持ち有利で低所得者に不利」は本当か?ベンツと軽自動車で考える“逆進性”と“累進性”

 

国民の負担を税と社会保険料のどちらにどれだけ割り振るか

そのような問題を乗り越えて、国民負担率が定まったとして、ではその負担を税と社会保険料のどちらにどれだけ割り振るのかという問題がある。

1つには、全て、もしくはほとんど全てを「税」で賄うという誠に潔い考え方があり、私は素人なりにそれが一番単純で分かり易いと思っているのだが、世界を見渡すと(図2)それは少数派で、デンマーク、ニュージーランド、オーストリアが「租税負担率」が99~100%、「社会保障負担率」が1~0%である。

またルクセンブルク、スウェーデン、アイルランド、カナダ、イスラエル、スイス、米国、チリ、メキシコなどは租税部分が圧倒的に多い。その他の多くは両方にほどほどに振り分けていて、日本もその1つである。

こうして税で負担させる割合が決まると、それを所得税・法人税など直接税で取るか、消費税(欧州などでは付加価値税)など間接税で取るか、という「直間比率」の問題が生じる。

この点で単純明快なのは米国で、国税全体に占める直接税の比重が何と94.3%、その内訳は個人所得税80.3%、法人所得税13.0%、遺産税・贈与税1.0%(21年度決算額)。間接税は国税としては酒税・たばこ税の各0.3%、関税3.0%などしか存在せず、州や郡市によって異なる率の小売売上税が設けられているに過ぎない。

 

いつまでも「昭和」を引きずり続けているこの国

それに対して日本は、直接税57.2%、間接税42.8%のほぼ6:4(23年度予算額)。バランスがいいとも言えそうだが実は中途半端。特に直接税57.2%の内訳で個人所得税が23.9%、法人税が22.8%と拮抗していることが示すように、シャウプ勧告に基づく産業社会型の昭和税制の名残を強く残しながら、その足らざるところを補うという趣旨で消費税を接ぎ木しているためである。

製造業の大企業が経済成長の推進役となる産業社会においては、例えば新日鐵が年々10%も売り上げを伸ばし、10万人もの従業員の給与も10%ず上がっていく疾風怒涛の時代にあっては、当時の国税当局はその本社経理部一カ所を抑えれば、その膨張を続ける法人税と10万人分の所得税を漏れなく綺麗に把握することが出来た。だから、竹下内閣が初めて3%の消費税を導入する前年=88年の税収を見れば所得税34.4%、法人税35.3%、資産課税11.4%の合計81.1%で、消費課税は18.9%に過ぎなかった。

それが40年近くを経て今は6:4程度のバランスになってきたのだが、米欧との大きな違いは、日本はまだ所得税を事業所単位で把握すると共に法人税をしっかりと取り立てるという昭和のスタイルを頑なに守っていることである。

産業社会はいつまでだったかと言えば、1つの指標は1975年に第3次産業就業者が初めて5割を超え、その頃から「ポスト産業社会」「情報サービス社会」ということが盛んに言われ出したことだろう。

今までは、男が猛烈に働いて稼ぎまくり、女は家を守り子供を育てるのが当たり前で、だから配偶者控除をはじめ様々な優遇措置や補助制度も家庭=世帯を単位として仕組まれていたのだが、産業構造と就業形態が変わって女も働きに出るのが普通になり、また企業社会も大企業中心から知恵と技を持った中小企業やベンチャー企業が持て囃される時代ともなってくる。

私がシリコン・バレーをよく取材していた頃に直接見聞したことだが、数人の大学院生仲間で始めた小さなベンチャー企業が何年も赤字が続いてヒーヒー言っていたと思ったら、コンピューター・ソフトが突然売れ出して世界中の話題となり、ナスダック上場も果たしてみんな持ち株を売って大金持ち。

会社は解散して、若くして引退して世界旅行に出かける奴がいるかと思えば、こちらの2人は資金を出し合って新しい会社を創り次の挑戦に取り掛かるといった具合で、税務当局が評判に気付いて調査に入ろうかと思った時には、もう会社がなかったりする。だから米国の所得税は、事業所単位でも世帯単位でもなく個人単位であり、そうでないと税が捕捉できないのである。

これはスウェーデンやドイツなど成熟先進国ではおおむね同様で、法人税に頼るのは経済の自由な展開を妨げる愚行だということになっている。つまりこの国はまだ半ば発展途上国を脱しておらず、そこを一体どうするのかが、税と社会保障のあり方を考える出発点でなければならない。

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