「消費税はカネ持ち有利で低所得者に不利」は本当か?ベンツと軽自動車で考える“逆進性”と“累進性”

 

食料品の軽減税率は恒久的にキッパリとゼロに

図3は、OECD加盟国の直間比率を比較している。

日本の位置はいかにも中途半端で、成熟先進国らしい税収構造に変革していかなければならない。それにはおそらく消費課税を現在の38カ国中29位からOECD平均くらいまで上げると共に、所得課税合計を11位からOECD平均くらいまで下げながら、その内訳で個人所得課税を増やし法人所得課税を減らすことが必要ではないか。

● 図3:OECD加盟国(38ヵ国)における所得・消費・資産課税等の税収構成比の比較(国税+地方税)

そこが定まった上で、初めて俎上にあがるのが、食料品に軽減税率を適用するのか、思い切ってゼロにするのかというのも問題である。

いま野党が「1年間限定でゼロにする」「いや2年間だ」などと言い合っているのは、何の根拠もなく何となく言っているだけで意味がない。1年にしても2年にしても、一旦下げたものを「はい、期限が来たので明日から元に戻して8%でお願いします」ということが現実的に可能かどうかとは別に、そもそも消費税率が10%と低く、それに応じて軽減税率も8%と変に高いというそれこそ中途半端を止めて、消費税率そのものを上げる一方、食料品に関してはキッパリと恒久的にゼロにするのが正しい。また新聞購読料の特別扱いは、ナベツネも亡くなったことだし、この際、廃止する。

図4は、食料品などへの軽減税率の国際比較である。グラフの濃い青は標準税率を示し、薄い水色は食料品への軽減税率を示す。

国によって考え方は大きく違い、軽減税率を一切設けていない(薄い水色が濃い青を上塗りしている)国は、ハンガリー、デンマーク、エストニア、リトアニア、スペイン、ブルガリア、チリ、ニュージーランド、シンガポールである。

逆に、ゼロもしくは非課税(全部が濃い青)の国は、アイルランド、英国、コロンビア、マルタ、イスラエル、メキシコ、カナダ、フィリピン、インドネシア、オーストラリア、カンボジア、韓国、ラオス、タイ、台湾である。

● 図4:諸外国等における付加価値税率(標準税率及び食料品に対する適用税率)の比較

標準税率が10%前半で軽減税率が何とはなしの9%とか8%で半端なのは日本と中国である。私の意見は、標準税率をこの51カ国中の真ん中辺り、つまり20%まで上げて、その代わり食料品の軽減税率はキッパリとゼロにする英国モデルに見倣うことである。

「消費税はカネ持ち有利で低所得者に不利」は本当なのか

ところで、消費税は逆進性が強く、高所得者に有利で低所得者には不利と言われているが、それは本当か。私は竹下内閣当時の議論の時から疑問を抱いていて、今もそれは解けていない。

端的な話、金持ちはベンツの最高級車を3,200万円で買って、消費税の標準税率が20%なら640万円、10%なら320万円を平気で払うだろう。しかし、例えば安房鴨川の山中に住んでいる私は、そもそもそれほど高額の車を買うだけの収入も貯えもないが、それは税制とは関係のない所得・資産格差の問題。

仮にそれを買えるだけの金があったとしても、私はそのようなベンツを買うことはなく、どうしてかと言うと、そんな車は我が家に上がる狭い未舗装路を走ったり、草刈機を積んで村の共同作業に参加したり、時には田んぼの畦道を抜けなければならなかったりするにはまことに不便で、田舎暮らしには全く役に立たないからである。従って私は、ダイハツの軽四輪ワゴン車を100万円台で買って税率10%の今なら10万円台の消費税を払う。

とすると、ベンツを買う金持ちは同じ車を手に入れるのに私の32倍もの消費税を払っているわけで、そこには巧まざる事実上の累進性が働いているのではないだろうか。

しかし、食料品となると、ベンツを乗り回す金持ちと慎ましい田舎暮らしの私との間にそれほどの違いはなく、彼も私もたぶん1日は3食だろうし、その食材を彼が高級スーパーで金に飽かせて買い込んだとしても、それが私の近所の店で手に入れた朝採りの魚介類や野菜類より美味しいとは限らない。

そうだとすると、日常必須の食料品について税率ゼロにするのはまことに合理的で、1年か2年はそうしてまた元に戻さなければならない理由はどこにもない。

そういうことを何も考えずに、有権者への受け狙いだけで1年間はゼロだとか、いや2年間だとか言っている野党の知的退廃こそ問題なのである。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2025年5月19日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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