小泉農相が正義の味方?マスコミが報じる勧善懲悪物語のウソ
ところで、発言の相手が小泉進次郎氏でなかった場合、たとえば石破首相であったなら、これほどメディアやネット世論に叩かれただろうか。答えは「ノー」である。
大手メディアは、小泉農相の登場に、チャンバラ劇の剣士が弱い人を助けるため悪漢成敗に駆けつけたかのようなストーリーを描いている。正義の味方、進次郎侍に文句をつける者はすべて悪なのだ。
テレビ各局のニュースや情報番組は連日、小泉氏の一挙手一投足を追いかけている。ワイドショーで「後光が差して見えた」などと小泉氏を絶賛するコメンテーターの声が相次ぎ、巷では「小泉総理」の誕生を待望する声さえ上がりはじめた。
だが、正直言って報道が過熱しすぎだ。
父、小泉純一郎氏ばりの「農協をぶっ壊す」というフレーズを持ち出し、「小泉劇場」と称しているのは、メディアであって、進次郎氏はそんなこと、ひとことも言っていない。むしろ、10年前の党農林部会長時代に持ち上がった「JA全農の株式会社化」について「全くない」と言い切っているほどだ。
農水委員会で玉木氏が「実質的に継続している生産調整(減反)の廃止は、し損ねた宿題だが、それをやるべきではないか」と質問したのに対し、小泉大臣はこう答えた。
「部会長と大臣では権限が違う。結果責任がある。様々な課題をテーブルにのせて中長期のコメ政策をどう転換していくのかを考えなければならない」
マスメディアが期待するような威勢のいい答えではない。小泉大臣が自民党農水族とコトを構えてまで、本気の農政改革に乗り出すだけの気迫を有していないことを玉木氏は見抜いている。だからこそ、「5キロ2000円のコメ」で威張っている場合ではないと言いたかったのだろう。
それでも、「農協をぶっ壊す」というシナリオを取り下げたくないのが、商業主義に汚染されたマスメディアの宿痾だ。“進次郎 vs 農協”といった構図をでっち上げ、「小泉劇場再来」と煽り立てる。(次ページに続く)