待たれる蓮池薫さんたちの口から「すべて」が語られる日
兄の蓮池透さんが嘆くように、日本に帰国して23年目に初めて明かす意図は何か。
「はしがき」にあるように、拉致を指示し実行した者たちと何も知らされていない北朝鮮の国民とは区別しなければならない。それはまったく正しい。しかし岩波書店の宣伝では「私の知り得たすべてを記す」とある。そうだろうか。
蓮池薫さんたち帰国した拉致被害者たちは、政府から長時間にわたる聞き取り調査を受けている。その内容は機微に及んでおり、いまだ政府は公表していない。国会の質疑でも安倍晋三総理(当時)は存在そのものを認めなかった。
報告書のなかでも核心は横田めぐみさんたちの暮らしぶりだった。めぐみさんがだんだん精神に変調をきたして精神病院に入れられたことは、残酷な内容だが、蓮池さんは詳細に証言していた。有田『北朝鮮拉致問題 極秘文書から見える真実』(集英社新書、2022年)では、エッセンスを紹介した。
だが遠慮して書かなかったことも少なくない。たとえば横田めぐみさんが田口八重子さんと共同生活をしていたとき、2人はガス自殺を試みたことがあったとの証言もあった。招待所で金英男氏と結婚しためぐみさんの隣に住んでいたのが蓮池夫妻だった。蓮池薫さんはどういう配慮があるのかはわからないが、「すべてを記す」ことをしていない。
この新書の初版は1万3,000部。銀座の「教文館」では5月10日の発売日に30冊の配本があったが、6月2日までに売れたのは5冊だった。ここにも拉致問題の風化が現れている。蓮池薫さんたちが「すべて」を語る日を待ちたい。
(本記事は有料メルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』2025年5月16日号の一部抜粋です。続きをお読みになりたい方は、初月無料の定期購読にご登録の上お楽しみください。このほか、1ヶ月単位でバックナンバーもご購入いただけます)
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