「なりふり構わない姿勢」を取るしかない欧州各国
欧州各国については、ほぼすべてが相互関税の対象にされていますが、今週発表の措置からは外れるという“幸運”に直面しつつ、いつ襲うかわからない荒らしに備えて着々とアメリカへの対応策を練っています。
この背景には、いくら突いても動かないロシアに対応するためには、今は欧州を手の内に囲っておくべきというトランプ大統領の思考があるものと想像しますが、当の欧州各国は、温度差はあるものの、一様にトランプ大統領の心変わりに対して警戒心を解かず、いずれ戦争が終わった際に戦後復興の利を獲得するためにロシアとの接近を始めたり、アメリカの定まらない方向性に備え、中国との関係再興に動いたりして、米中(ロ)間での綱引きの対象になっているように見えます。
欧州各国の“迷走”の背景には、トランプ大統領のアメリカは必ずしも大西洋を挟んだパートナーシップを堅持するかどうかは定かではないという読みに加え、同盟国に対しても容赦なく関税措置を交渉カードとして用いてくることに混乱し、そして明らかな国際法違反であるイスラエルによるガザ地域や周辺国、そしてイランへの攻撃に加え、アメリカが宣戦布告も国連安保理決議も、そして同盟国への事前通告もなく、一方的にイランを攻撃するという措置に与することができないというアイデンティティ的な問題と、長くスランプに陥っている欧州経済の立て直しが急務となっていて、もうなりふり構わない姿勢を取るしかないというポイントがあります。
そのために欧州各国の中国との関係回復や、エネルギー安全保障に絡むロシアとの距離感の変化などが起こっているものと思われます。
このような時にこれまでのアメリカの政権であれば「欧米関係は強固なものであり、自由資本主義体制の礎として…」的なコメントをしてパートナーシップが一枚岩であることを宣言して欧州を安心させようとするのでしょうが、トランプ政権下では、見たところ、あまりそのような傾向もみられません。
いろいろと思い込みに即した一方的な措置を乱発し、かつ安易な仮定の下に“紛争の早期解決”を請け負ってみたものの、どの紛争も終わるどころか過熱し、また新たにイランとの緊張を危険な水域まで高めてしまい、実際には世界をより第3次世界大戦に近づけるような方向に進めているように見えます。
その危険性を高めている主役こそがイスラエルのネタニエフ首相であり、彼を抑えきれていないトランプ大統領の失敗だと考えられます。
今週に入ってアメリカとイランの核協議が再開されるらしいという情報も飛び交っているものの、その成否はイスラエルとイランの“停戦合意”が履行され、戦闘のない状態の維持に、アメリカがどこまでコミットするのかということにかかっています。
その流れに水を差すつもりなのか、それともイランからの示威行為・観測気球なのかは定かではないのですが、今週、フーシー派による船舶への攻撃が行われ、また地域での緊張が高まっています。
当のフーシー派は、アメリカと相互に攻撃しない旨、合意していますが、今回の攻撃がアメリカの権益ではないところで、非常にデリケートなラインを突いて刺激しているように見えます。
もちろんイランが公式にフーシー派への関与を認めることはありませんが、親イラン派で今、恐らく唯一機能している国外勢力を用いてレバレッジを作っているのかなと推察します。
ただ停戦を受け入れ、かつ戦闘の激化・エスカレーションは望まないイラン政府としても、アメリカに頭ごなしにいろいろと言われるイメージは体制維持のためにも避けたいとの思惑もあり、協議の開催の可否を取引材料につかっているようです。
今回、イランにアメリカとの協議を勧めているのが、先週に電話会談を行ったプーチン大統領とマクロン大統領と言われていますが、この二人もまた意図にはギャップが生じているように見えます。
イランに対する影響力を駆使できる両国ですが、ロシアは国際社会の目ができるだけ長く中東地域に注がれていることが重要と考えているため、イランと欧米、そしてイスラエルの間に緊張関係が残っていることは好ましいと捉え、協議を行わせることで、アメリカの注意をイランに向けさせておきたいと考えているように見えます。
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