カギを握るサウジアラビアをはじめとするアラブ諸国の動向
フランスについては、ロシアとの特別な関係のアピールもありますが、もう一つは核保有国の一角を担い、外交的に中東におけるイラン・イスラエルの非常に危険な緊張を和らげる役割に就くことで(そう見せることで)失われたレガシーを取り戻し、常任理事国としての矜持も示すことができるという算段が見えます。
もちろん、核協議の結果、フランスの原子力ビジネスに対する大きなチャンスを提供できるという、別の狙いもあると思われます。
そしてイランの背後にいる両国の思惑は微妙にずれていますが、共通している狙いがあるとすれば、それが“アメリカ離れ”の世界経済秩序の基盤づくりだと言えます。
そのカギを握っているのが、サウジアラビア王国をはじめとするアラブ諸国の動向です。
2日間続いて行われたトランプ大統領とネタニエフ首相の首脳会談を受け、「1週間から2週間の間にガザ問題解決の糸口が見える」とアメリカ政府とイスラエル政府は話していますが、実際のところは分かりません。
その背景には、“停戦”を匂わせながらも、一切ガザやヨルダン川西岸地区に対する攻撃を緩める気配がないイスラエルの姿が、アラブ諸国にとっては「パレスチナの壊滅を狙っているのではないか」という疑念の強まりに発展していることがあります。
アラブ諸国にとっては、パレスチナ問題に諸々の意見と感情が交錯するものの、各国民からの求心力を維持するためには“同胞アラブ人”であるパレスチナ人の民族自決の権利を守る姿勢を示す必要があるため、イスラエルが勢いに乗ってパレスチナを壊滅しようとする動きは、仮にそれが妄想であったとしても、明らかなレッドラインとなるため、現時点ではイスラエルに対しての歩み寄りの姿勢を見せることができない事情があります。
これについては、親米アラブ諸国を維持したいトランプ大統領も同調し、ゆえに二国家解決を推していますが、それを真っ向からネタニエフ首相が否定する姿を見て、アラブ諸国はイスラエルの“停戦意思”に対する疑念を捨てられずにいます。
それもあり、アラブの盟主たるサウジアラビア王国は、トランプ大統領からアブラハム合意の締結を求められても、イスラエルが呑めない二国家共存とガザからのイスラエルの影響力の排除という条件を突き付けて、強まるイスラエル一強状況に抵抗しようとしています。
このようなケースに対しては、これまでは歴代のアメリカの政権が働きかけて、何かしらの利益供与をアラブ諸国に送ることと、軍事的なバックアップを確約することで、アメリカの方針をのませてきた経緯があるのですが(第1次トランプ政権時のアブラハム合意がその一例です)、2023年10月7日以降のアラブ社会では、明らかな国際人道法違反である行動を強行するイスラエルを止めるどころか、その野心を助長させているアメリカ政府の姿に公然と異議を唱え、中国とロシアとの関係改善やイランとの外交関係の樹立などの選択肢を増やすことを通じて、これまでのアメリカ盲従型の姿勢を一気に変え、アラブ社会および中東地域においての独自の勢力圏の確立を意図しているように見えます。
その結果、イランも巻き込んだ“対米アラブ諸国の離反”が起きていますが、それを喜び、その流れを加速させようとしているのがロシアと中国です。
「対立はしても話し合いを持つことができる」とトランプ大統領が過信している相手がプーチン大統領と習近平国家主席ですが、実際には両者の巧みな企みに手玉に取られる・弄ばれ、ただの時間稼ぎに利用されていると言っても過言ではないと考えます。
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