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石破は国民に説明できるのか?日本からの投資80兆円の利益9割を米国が受け取る「トランプ関税交渉」の何も見えない内容

自民党が大敗した参院選の直後というタイミングで、まさに「急転直下」の合意となった日米関税交渉。石破首相は選挙戦中の街頭演説で「なめられてたまるか」との強い言葉を発し話題となりましたが、果たして合意内容はアメリカに「なめられていない」ものとなったのでしょうか。7月から全体構成をリニューアルしたメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野晃一郎さんが、現状判明している日米両政府発表の情報を紹介。さらに交渉を担当した赤沢経済再生担当大臣のSNSへの投稿や、それに対する自民党議員の反応に疑問を呈しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:日米関税交渉決着の第一報

プロフィール辻野晃一郎つじの・こういちろう
福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

日米関税交渉決着の第一報

7月23日(水)の朝、ややサプライズなニュースがありました。日米関税交渉が妥結したというのです。トランプ大統領が、いつものTruth Socialに以下のメッセージを投稿しました。

We just completed a massive Deal with Japan, perhaps the largest Deal ever made. Japan will invest, at my direction, $550 Billion Dollars into the United States, which will receive 90% of the Profits. This Deal will create Hundreds of Thousands of Jobs ― There has never been anything like it. Perhaps most importantly, Japan will open their Country to Trade including Cars and Trucks, Rice and certain other Agricultural Products, and other things. Japan will pay Reciprocal Tariffs to the United States of 15%. This is a very exciting time for the United States of America, and especially for the fact that we will continue to always have a great relationship with the Country of Japan. Thank you for your attention to this matter!

日本語訳:私たちは今、日本との巨大な取引を完了しました。おそらく史上最大の取引です。日本は、私の指示のもと、5,500億ドルをアメリカに投資し、その利益の90%をアメリカが受け取ることになります。この取引により、数十万人の雇用が創出される見込みで、これまでに類を見ない規模のものです。恐らく最も重要なのは、日本が自国市場を開放し、自動車やトラック、コメを含む特定の農産物、その他の品目の貿易を可能にすることです。また、日本はアメリカに対して15%の相互関税を支払うことにも合意しました。アメリカ合衆国にとって、そして特に日本という国と引き続き素晴らしい関係を築いていけることにとって、非常にエキサイティングな瞬間です。この件についてご注目いただき、ありがとうございました。

【関連リンク】:Truth Social(@realDonaldTrump

今のところ詳細は不明ですが、このトランプ氏のメッセージでは、日本は米国に対して、市場開放や5,500億ドル(約80兆円)もの投資を行うことによって、相互関税を15%に抑えたという内容になっており、先日の25%から10ポイント引き下げられました。

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もともと相互関税とは別建てで定められていた自動車への追加関税25%についても12.5%に半減され、従来からの基本関税2.5%と合わせて15%とするそうです。なお、同じく別建ての鉄鋼やアルミ製品に対しては50%のままのようです。

日米双方からの正式な合意文書が開示されていませんが(これから作るのかもしれません)、このトランプ氏の投稿を少し詳しく補足した米側の発表が以下のホワイトハウスのホームページに掲載されています。

【関連リンク】Fact Sheet: President Donald J. Trump Secures Unprecedented U.S.?Japan Strategic Trade and Investment Agreement

その後、米側からの追加のコメントとして、今後合意内容が履行されているかを四半期ごとに確認し、結果によっては25%に戻すと脅されています。

日本側では、赤沢大臣が以下のようにXに投稿し、「任務完了」と宣言しています。

本日、#米国ホワイトハウスに行きました。#任務完了しました。全ての関係者に心から感謝です。帰りにホワイトハウス内の階段の踊り場で、#カナダ・カナナスキス・サミットの際に #トランプ大統領と会談中の上司(#石破茂総理)の写真を発見したので記念撮影しました。

#ゆっくり急ぐ

【関連リンク】https://x.com/ryosei_akazawa/status/1947807828615254102

以下は、ワシントンDCでの合意直後の赤沢大臣の会見の様子ですが、合意内容の一部、および合意に対する日本側の解釈が少し語られています。

【関連動画】【ライブ】日米関税交渉合意で赤沢大臣が会見

また、以下は石破首相のXへの投稿ですが、具体的な話としては15%への言及があるだけです。

関税より投資の考えの下、日米が共に利益を得られる合意に達することができました。自動車関税、相互関税とも15%になります。トランプ大統領の指導力、赤澤大臣を始め双方の関係者の尽力に心から感謝します。大統領と共に、日米の新たな黄金時代を築きます。

【関連リンク】https://x.com/shigeruishiba/status/1947879936561451436

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前述した通り、日本側からも合意文書の開示はまだありませんが、石破首相のぶら下がり会見の動画とその書き起こしが首相官邸ホームページに掲載されています。赤沢氏の会見以上の中身はありません。

【関連リンク】米国関税措置に関する日米協議の合意等についての会見

期限とされた8月1日より一週間以上も早く、参院選直後の急展開ですが、具体的には一体どのような合意がなされたのでしょうか?

5,500億ドルの投資については、米政府系の投融資ファンドを設立するという解説もありますが、金を出すのは日本側であるにもかかわらず、利益の90%を米国が受け取るというのは一体どういうことなのでしょうか。本当にそうならあまりにも馬鹿げた話です。

また、自動車や農産物の市場開放といいますが、前述のホワイトハウスからの発表では、それ以外に防衛装備品の追加購入などへの言及もあり、気になるところです。

この話を受けて、23日(水)の株式市場では日経平均が前日終値に比べて一時1,500円超上昇しました。一方で、5,500億の投資という話が効いているのか、10年物の日本国債は売られています。

石破氏は、「舐められてたまるか」と、国益を守る交渉を粘り強く行うと繰り返していました。赤沢氏は、「任務完了」と言う以上、「国益を守る交渉をやり遂げた」という意味でなければなりませんが、これまでの言動からは、「任務完了」の言葉がどうしても軽く響きます。

自民党議員たちも赤沢氏に「大役お疲れ様でした」などと一斉にねぎらいの言葉をかけていますが、具体的な中身もわからないまま、一方的に舐められた内容である可能性が高いにも関わらず、ずいぶんお気楽なものだと感じてしまいます。

政府は、8月1日に召集されることが決まった臨時国会で、合意の内容についてつまびらかに報告する義務がありますが、果たして国民が納得する説明が出来るのでしょうか?

(本記事は『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中 』2025年7月25日号の一部抜粋です。「参院選を振り返る」と題した「今週のメインコラム」、「水素酸素発生器」の効用を紹介する「今週のオススメ!」、「経産省による楽天グループAI開発に対する支援への疑問」にアンサーした「読者の質問に答えます!」、「自分の横顔のチェック」を促す「スタッフ“イギー”のつぶやき」を含むメルマガ全文をお読みになりたい方は、この機会にぜひご登録ください)

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辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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