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中国に付け入る隙を与えかねない。石破政権の無責任極まる“トランプ関税合意”が高める日本の反米ムード

7月23日に日米間で合意し8月7日より発動されることとなった、いわゆる「トランプ関税」。しかし日本政府は当合意を巡る共同文書を作成しないと言い切っています。これに異を唱えるのは、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野晃一郎さん。辻野さんは自身のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』で今回、共同文書不作成は「合意なされていないも同然」と強く批判するとともに、合意内容について「石破政権がアメリカに屈服し完敗したと受け取らざるを得ない」との厳しい認識を示しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:日米関税交渉決着の続報

プロフィール辻野晃一郎つじの・こういちろう
福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

トラブルになるのは必然。“トランプ関税交渉”の作成されぬ合意文書

前回取り上げた日米関税交渉の合意内容については、一週間経っても依然として詳細がはっきりしません。

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この関税交渉は、越境EC事業を営んでいる当社にとっても最大の関心事の一つなので注視してきましたが、結局、合意内容を定めた共同文書は作成されておらず、なんと日本政府は合意文書の作成はしないとまで言っており、従来の外交常識ではあり得ない話です。

国家間の交渉事で合意文書が作られないということは、合意がなされていないも同じです。

その後、日米双方が、必ずしも整合性の取れていないそれぞれの言い分を、SNSやぶら下がり会見で発信したり、米側では主にラトニック商務長官、日本側では赤沢経済再生担当大臣がさかんにテレビ番組などに出演して好き勝手に発言しています。このままでは、今後双方の解釈の差異が表面化してトラブルになるのは目に見えています。

米側は、四半期ごとに合意の履行について確認し、履行が不十分ならまた関税率を引き上げることもあり得ると牽制していますが、これは、トランプ大統領の気分や都合で米側の勝手な解釈や判断がまた押し付けられるリスクが残るということでしょう。

特に5,500億ドル(80兆円)とされる日本から米国への投資の話については、そこで発生した利益の90%が米側に還元されるとのことですし、ラトニック氏は投資対象の決定権は米国にあるとしています。また、相互関税や自動車への関税も、当初の数字から15%まで下がったとはいうものの、もともと免税ないしは低関税だったものに15%もの高関税が課されるわけです。

このままではあまりにも一方的に米国に有利な内容になっていて、これをもって合意と言っているのであれば、日本が交渉において米側に屈服し完敗した、と受け取らざるを得ません。

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首相は「双方の国益に寄与する合意」と本気で思っているのか

かねてより本メルマガでは主張してきましたが、トランプ2.0革命は、100年に一度というくらいに世界秩序を大きく転換させる動きといえます。しかしながら、日本政府も日本国民の多くもその本質を正しく見極めることなく高をくくっているのではないでしょうか。

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対米関係についても、オバマ政権時やバイデン政権時と大して変わらないスタンスで捉えていて、トランプが去ればまた元に戻るようなイメージを持っているのかもしれません。

穿った見方をすれば、日本側としては、何とか関税率だけは下げてその言質を取りつつ、他の話についてはとにかくトランプを喜ばせるための大風呂敷を広げて口約束だけしておけばよい、そのために、敢えて合意文書を作るなどという自らを縛るようなことはしない、という算段なのかもしれません。しかし、米国のこの変化は不可逆的なもので、もはや民主党政権に戻ることすらないと考えておいた方が良いと思います。

ちなみに、現在米国で大騒動になっているのは、民主党政権時代の不正や悪事の数々です。エプスタインリスト開示の件とも絡んで、司法省や議会での調査が進んでいます。

本来、今の米国の状況を正しく見抜いていれば、トランプ2.0革命によってもたらされるさまざまな変化をこちらもチャンスと認識し、これまでの対米従属一辺倒の日米関係から脱却することを含めて、世界における日本の立ち位置を再構築するチャンスでもあるわけです。しかし、今回の関税交渉の顛末を見ていると、とてもそのような認識で交渉したようには思えません。

江戸幕府末期に結ばれた日米修好通商条約、あるいは100年前のワシントン海軍軍縮条約などは、日本に対して屈辱的ともいえる不平等条約でしたが、今回の日米関税合意はそれ以上に屈辱的なものといえるかもしれません。しかも、繰り返しますが、本当に合意文書を作らないのであれば、トランプ政権からまたいつでも難癖をつけられる余地を残しているといえます。

石破首相は、「舐められてたまるか」と言いながら、こんな無責任な交渉をしておいて、「日米双方の国益に寄与する合意がなされた」などと本気で思っているのでしょうか?このままでは、国内の反米ムードを高めることにもなりかねず、結果的には中国に付け入る隙を与えることにもなりかねません。

衆院選、都議選、参院選と三連敗の石破首相は、自民党内部からの退陣を迫る声に反発して続投を宣言しています。続投理由の一つにこの関税交渉を挙げ、「着実な実行のため全力を尽くしていきたい」と強調していますが、実行されると国益に反することになる項目があるのではないか、ということを国民は不安に思っているのです。本日から始まる臨時国会では、合意の全容をきちんと説明して欲しいと思います。

(本記事は『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中 』2025年8月1日号の一部抜粋です。「戦争を考える(1)」と題した「今週のメインコラム」、「ラジオ体操」の効用を紹介する「今週のオススメ!」、「水素水に対する疑問」にアンサーした「読者の質問に答えます!」、「カプセルトイ」を取り上げた「スタッフ“イギー”のつぶやき」を含むメルマガ全文をお読みになりたい方は、この機会にぜひご登録ください)

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辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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