さまよう安倍晋三氏の亡霊。所信表明で「日本再起を目指す」と言い放った高市首相が批判すべき“我が国を没落させた”張本人

 

繰り返された「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」の惹句

外交・安保分野となると、もっと直裁に安倍路線の真似事になる。まずはイメージ作戦として、安倍が何度も使っていた自慢のフレーズ「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」のスローガンが掲げられるが、どうでしょう、世界から見ても、日本人が自分で顧みても、日本が「世界の真ん中」に居ると思っている人が一体何人いるか。ましてやその日本が「咲き誇る」花のように輝きと香りを放っていると感じる人が何人いるか。

明らかにこのイメージ作戦は過剰というか誇大妄想的で、これからの日本は何も世界の中心にしゃしゃり出ようとするのではなく、もっと慎ましく、アジアの端っことは言わないがその一角にそれなりの存在感を持って居場所を定め、周りから尊敬を集め時には色々な相談に乗ってあげるような、ほどほどの国柄となるのが望ましいのではないか。世界の真ん中……少なくとも私は、そんなところへ行きたくない。

その上で、またも掲げられるのは「『自由で開かれたインド・太平洋』を外交の柱として引き続き力強く推進」するという勇ましい宣言である【10-外交・安全保障】。

これは安倍時代からの言い古されたセリフだが、「自由で開かれた」というのは、例えば南シナ海を想定するとわかりやすいが、「中国によって支配されたり他国の航行が妨害されたりすることのない」という意味である。次の「インド・太平洋」というのは、表面的には「インド洋から太平洋まで」という地理的表現に過ぎないが、前半の暗喩と抱き合わせると、「その中国排除・包囲網にインドを引き込むことが大事」という戦略判断が塗り込められているのである。

【10-外交・安全保障】は冒頭近くで「我が国周辺では、いずれも隣国である中国、北朝鮮、ロシアの軍事的動向等が深刻な懸念となっています」と言い、それに対しては「日米同盟を基軸として抑止力・対処力を高めていきます」としている。細かいことだが、近年は対処力に触れる時には必ず「抑止力・対処力」と言うようになっているが、これは単に受け身に「抑止」するだけでなく「敵基地攻撃能力」を備え必要に応じては「先制攻撃」も辞さずに積極的に「対処」するという意味であることに注意しておきたい。

私が思うに、この辺りの話は全部逆さまで、日本が米国と一体になって中国はじめ北朝鮮やロシアを含む現及び旧共産国を「共産圏」と一括りにして敵と定め、その進出に対して米国を先頭に「自由」の旗を押し立てて「インド・太平洋」を1つの面として対抗していこうという、まるっきり冷戦時代と変わらぬ敵対姿勢をとるからこそ「中国、北朝鮮、ロシアの軍事的動向等が深刻な懸念」となるのではないか。

防衛費の「対GDP比2%」の本年度中の繰上げ達成【10-外交・安全保障】にしても、誰がどのように日本にとっての脅威であり、それを抑止し対処するにはどういう装備が足りないのかも明らかにせずに、「中国が怖い」「北朝鮮が危ない」といった恐怖感を煽るだけで予算を膨らませ、米国の言うなりに最新兵器を爆買いするといった「没戦略思考」に陥っているのが心配である。

こうして、安倍の亡霊に見送られて高市丸は船出した。しかし維新の半分腰が引けた「閣外協力」姿勢のお陰で船は最初から傾いた状態でしか運航することが出来ず、例えば「憲法改正」については「私が総理として在任している間に発議を実現していただく」と言っている【11-憲法改正等】が、誰もが「まさか改憲案が党内及び各党間でまとまるほど長く在任しているわけがないじゃないか」と見切っているのが現状である。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2025年10月20号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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