欲しいのは「戦争を終結に導いた大統領」という肩書。トランプが世界中の紛争に“中立的な第三者”ではない立場で首を突っ込む理由

 

国際秩序の崩壊に繋がりかねない「グリーンランド問題」

しかし、ここで注意したいのは【ベネズエラの原油セクターの掌握が、中ロとの勢力争いに勝利するきっかけになるか?】という点です。

中国の国営石油会社のシノペック・グループ(28億バレル)、ロシアのロスザルベズネフチ(23億バレル)、そして中国石油天然気集団CNPC(16億バレル)と、中国とロシアの石油会社が外資のトップ3を占めていますが、中国にとってベネズエラは第34位の原油供与国に過ぎないため、投資先がアメリカにつまみ食いされることは癪に障るでしょうが、ベネズエラからの輸入が停止したとしても、ロシアやイラン産の原油供給先からの代替がすぐに可能であるため、トランプ大統領が望むほど、中国にショックを与えることにはならないと見ています。

ロシアについては、自国が産油国であるため、こちらについてもさほど大きなショックとはなりませんが、中ロにとっては、チャベス政権以降、高めてきた中南米地域における政治的なプレゼンスに対する打撃となるかもしれません。

総合的に見てみると、原油・石油権益をアメリカが握ることによる中ロへの影響は微小だと思われますが、中ロが外交・経済・軍事など多面的に支援しているキューバやパラグアイ、グアテマラやニカラグアといった国々に対して強化してきたコントロール力は、中南米地域の騒動が収まるまでは、低下することになると思われます。

中ロによる“アメリカ合衆国の裏庭”への影響力の伸長は、アメリカの介入の強化により控えざるを得ないのが実情だと思われます。

この中ロとの対峙については、中南米地域ではアメリカの優位が鮮明になる半面、アジア太平洋地域においては中国がよりリソースを割き、アメリカがロシア・ウクライナや中東、そして中南米に力を割かれている間にコントロールが強まるものと思われますし、習近平国家主席が宿願であり、不可分の利害と位置付ける台湾に対する軍事侵攻による併合の可能性が高まる恐れがあります。

ここにアメリカがフルコミットできなければ、中国は勢いづき、その影響を日韓や東南アジア諸国がもろに被ることに繋がり、アメリカが長年築いてきた戦略的な優位性が一気に失われる可能性が高まります。

ロシアについては、アメリカが中南米にコミットしたことで、これまで以上にロシア・ウクライナ戦争を長引かせることができる公算が高まり、一気に畳みかけるような行動に出るかもしれません。さらには、ウクライナに対する欧州各国のコミットメントが、実のない口先だけのものであることが露呈した場合には、ロシアによるバルト三国や東欧諸国への脅威と圧力が高まることが予想されます。

懸念すべきは、アメリカ政府が自国の一方的な利益追求のために軍事力を用いてベネズエラを攻撃し、主権国家の元首を拘束して米国に連れ去るという荒業を正当化していることを踏まえ、ロシアはウクライナおよび周辺国への軍事侵攻を正当化するでしょうし、中国も台湾侵攻のみならず、南シナ海・東シナ海における勢力拡大を正当化することになりかねません。

国連安全保障理事会の常任理事国5カ国中、3か国がそのような自国中心の力の外交を推し進めるようなことになれば、確実に協調と話し合いに基づく国際秩序は崩壊し、力のある者が己の欲を満たすために軍事力を行使するという弱肉強食の世界が生まれ、正当化されることに繋がります。

その恐れが本物になるか否かの分水嶺が、トランプ政権によるグリーンランド所有・領有に向けた動きとそれに対する国際社会、特に欧州各国の対応です。

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